NOKID編集部
キャラクターIPの専門メディア NOKID Lab の編集部です。アニメーションとキャラクター制作を手がける株式会社NOKIDの知見をもとに、IPの起用事例やコラボ・ライセンスの実務、業界の動きを解説しています。



派手なキャンペーンを打つ。一時は盛り上がる。けれど終わってみれば、また元通り。広告費だけが積み上がって、自分たちの手元には熱量も資産も何も残っていない——IPやキャラクターを使った販促に関わったことがあれば、この徒労感に覚えがあるかもしれません。
ブシロードの2026年6月期第3四半期決算は、その徒労から抜ける一つのヒントを含んでいます。
注目したいのは、売上の伸びを牽引したのが主力事業ではなかった点です。この四半期、看板であるトレーディングカードゲーム(TCG)事業は、むしろ減収でした。「ヴァイスシュヴァルツ」や「カードファイト!! ヴァンガード」で知られる主力が前年同期より約11億円も売上を落としています。
それでも会社全体の売上は伸び、通期予想も上方修正されました。主力がブレーキを踏んだのに、会社全体は前へ進んでいる。この一見ちぐはぐな決算の裏に、一度の盛り上がりだけで終わりにしない稼ぎ方があります。
本記事が注目するのは、利益よりも減収の主力を抱えながらも売上を伸ばし続けた事業構造のほうです。さっそく、決算の数字から「なぜ消えずに伸び続けるIPが作れるのか」という事業構造の視点で読み解いていきます。

ブシロードを「カードゲームの会社」と認識している人は多いと思います。その理解は半分正しく、半分は古いかもしれません。
ブシロードの事業は、大きく6つのユニットで構成されています。トレーディングカードゲーム(TCG)、デジタルゲーム、ライブエンタメ、MD(マーチャンダイジング=グッズ)、メディアコンテンツ(出版・映像)、そしてスポーツです。
スポーツというのは比喩ではありません。ブシロードはこの四半期まで、プロレス団体の新日本プロレスやスターダムを傘下に持っていました(新日本プロレスはその後、選択と集中の一環で外部へ譲渡されています)。アニメやゲームのキャラクターを扱う会社が、興行も手がける幅の広さを持っていたわけです。
とはいえ、ブシロードの本体価値は、こうした個別事業の寄せ集めにあるのではありません。デジタルで広がるキャラクターIPを軸に、それを多面的に展開して稼ぐ。同社が自らを「IPディベロッパー」と呼ぶゆえんです。
その上で、2026年6月期第3四半期の決算を見てみます。ブシロードが公表した決算説明資料をもとに、数字を追っていきます。

この四半期、主力のTCG事業は単体の売上高が前年同期比で約11億円減少しました。第4四半期に主力商品の仕様変更を控え、調整期間と位置づけられたためです。看板事業が一時的にブレーキを踏んだ格好です。
ところが、第3四半期までの累計(9か月)で見ると経常利益は前年同期から約21億円増えて50億円規模に達し、通期予想も上方修正されました。主力が足踏みしたのに、会社全体は伸びている。
ただし注意が要ります。通期純利益の大幅増には、後述する一過性の特別利益が含まれており、本業の稼ぐ力そのものが急伸したわけではありません。それでも、減収の主力を抱えながら全体の売上を伸ばし続けた事実は変わりません。
この一見ちぐはぐな状態こそ、ブシロードの面白さの入り口です。
カードが主役でないなら、いったい何がこの会社を伸ばしているのでしょうか。答えは、同社が同じ時期に掲げた一つの言葉に表れています。
参考:2026年6月期 第3四半期決算説明資料 - 株式会社ブシロード

ブシロードが伸びている理由は、個々の事業の好調ではなく、デジタルで広く届くキャラクター人気と、その場でしか得られないリアルな体験を、一社でつないでいる点にあります。同社はこの考え方を2026年に「LIVE-MIXED ENTERTAINMENT」というビジョンとして明文化しました。
ブシロードは2026年3月、自社のミッション・ビジョン・バリューを再定義しました。新しいビジョンとして掲げたのが、LIVE-MIXED ENTERTAINMENTという言葉です。
LIVE-MIXED ENTERTAINMENTには、ライブ体験が混ざり合うエンタメを開発し続ける、という意味が込められています。
注目したいのは、この会社がわざわざ「混ざり合う」を企業の存在意義として言語化した点です。多くの企業はキャラクターやコンテンツを展開する際、アニメ、グッズ、ゲームと領域を広げていきますが、それを「混ざり合う」という思想にまで高めて旗に掲げることはまずありません。
ブシロードは、デジタルとリアルが交わる場所こそが自社の価値の源泉だと宣言したのです。
会社の説明によれば、その背景には、テクノロジーで多様な体験が手軽に届く時代だからこそ、人と人が同じ場や時間を共有して生まれる熱量がより大きな価値を持つ、という認識があります。配信でいつでもどこでも観られる時代に、あえて「その場でしか味わえないもの」に賭けているのです。
ブシロードの掛け合わせの起点は、つねに2次元のキャラクターIPです。カードやアニメ、ゲームで育てたキャラクターは、デジタルやSNSで安く広く拡散できます。安く広くファンを集めるのが、2次元の役割です。
一方、声優によるリアルライブは、その会場でしか体感できません。ここで注意したいのは、リアルライブ自体が高採算なわけではない点です。
会場費・機材・運営の人手がかさむぶん、興行は意外なほど薄利になりがちです。実際ブシロードのスポーツ事業(プロレス興行)は、相応の売上規模がありながら利益率は数%にとどまっていました。リアルは、それ単体で大きく稼ぐ場ではないのです。
ではリアルは何のためにあるのか。
ファンの熱量を濃くし、利益率の高い別の商品を買う動機をつくるためです。同じ会場で同じ音を浴びた体験は、画面越しでは得られない愛着を残します。その濃くなった愛着が、グッズやカードという高採算な商品の購入に向かう。

決算の結果を見ても、ライブの盛り上がりに連動してグッズ(MD)事業が大きく伸びており、会社自身もユニット間のシナジーとして説明しています。
つまり、ブシロードのやり方は、広く見込み客を集めるための2次元IP、見込み客の熱を濃くする薄利のリアルライブ、そして濃いファンから回収する高採算の物販が組み合わさった状態になっているのです。
この三つを別々の会社に分けず一社で地続きに持っているからこそ、リアルで生まれた熱が外に逃げず、自社の物販利益として回収できます。会社が自らを「IPディベロッパー」と名乗るのは、この回収構造を指しています。
物販やライセンスなど、キャラクターで収益を得る方法の種類は、IPビジネスで収益を生む方法で整理しています。
この「混ざり合う」を最もわかりやすく体現しているのが、バンドリ!プロジェクトです。
バンドリは、声優がリアルにバンドを組んで演奏するという企画を軸に、カードゲーム、モバイルゲーム、アニメ、出版、ライブイベント、CD、グッズ販売へと多角的に展開されています。
一つのIPを起点に、デジタルの接点とリアルの接点を何重にも重ね、ファンの熱量を最大化していく流れが作られています。
ここで見落としてはいけないのが、これらが個別ばらばらの施策の寄せ集めではない点です。ライブで高まった熱がグッズの購入につながり、ゲームで深まった愛着が次のライブへの動機になる。一つひとつを単発で打って終わらせず、互いに重ねて大きくしていく。これがLIVE-MIXEDの中身です。
この連動を分解すると、一定の順序を持ったサイクルが見えてきます。

第一に、2次元で広げる。カード、モバイルゲーム、アニメといったデジタルの接点は、低コストで広く届きます。まずここで、キャラクターへの愛着を持つ人の数を増やすということです。
入り口は安く、広く、が役割です。
第二に、3次元で濃くする。広く薄く獲得した愛着を、声優のリアルライブという「その場でしか得られない体験」にぶつける。同じ会場で同じ音を浴びる時間は、画面越しでは代替できません。ここで、ファンの熱量そのものが一段引き上げられます。広さを、濃さに変える工程です。
ライブ自体は運営コストがかさんで薄利になりがちですが、この段階の役割は稼ぐことではなく、熱を濃くすることにあります。
第三に、濃くなった熱量を回収する。回収の主役は、ライブそのものより、利益率の高いグッズやカードです。濃いファンは、グッズを買い、円盤を買い、次のチケットを取る流れです。
のちほどデータで触れますが、推し活市場では消費額上位のコア層が、ライト層の何十倍も支出するという偏りがあります。薄いファンを濃いファンに変えられれば、一人あたりの売上が桁で変わるのです。
そして第四に、回収して終わりではなく、その熱がまた次の入り口に還っていく。ライブで生まれた熱はSNSで拡散し、新しいカードやアニメの話題になって、また新たな人を2次元の入り口へ連れてくる流れです。
サイクルが一周して、次の周回が前より大きくなる。これが「掛け合わせれば残る」の正体です。
イメージとしては、花火と焚き火の違いに近いかもしれません。単発のイベントは打ち上げ花火です。一瞬は華やかでも、消えれば夜空に何も残らない。一方、掛け合わせは焚き火に似ています。
一つの薪が次の薪に火を移し、くべ続けるかぎり熱がその場に留まる。ブシロードがやっているのは、IPという薪を次々にくべて、熱を絶やさない仕組みづくりです。
思想としては理解できます。では、この「掛け合わせれば残る」は、本当に数字として裏付けられるのでしょうか。決算と市場データの両面から確かめてみます。

ブシロードの決算で実際に伸びたのは、ライブ・グッズを中心とする、キャラクター人気と地続きのリアルな事業群でした。主力TCGが減収でも全体が伸びたのは、これらが互いに連動し、掛け合わせが数字となって表れたからです。
第3四半期(3か月)の事業別の売上高と前年同期比は、次のとおりです。
| 事業(ユニット) | 売上高 | 前年同期比 | 動き |
|---|---|---|---|
| TCG(トレカ) | 約57.8億円 | 約−11.0億円 | 減収(仕様変更前の調整期間) |
| スポーツ | 約21.9億円 | 約+3.4億円 | 四半期過去最高 |
| MD(グッズ) | 約24.2億円 | 約+7.0億円 | 増収 |
| ライブエンタメ | 約17.0億円 | 約+7.4億円 | 増収 |
| メディアコンテンツ | 約5.0億円 | 約+1.6億円 | 増収 |
| デジタルゲーム | 約18.3億円 | 約−0.2億円 | ほぼ横ばい |
主力のTCGが約11億円減らした一方で、MD・ライブ・スポーツが合計で約18億円近くを積み増しました。以下、伸びた事業を順に見ていきます。
伸びを牽引したのは、2次元IPと地続きのリアル事業でした。
ライブエンタメ事業は売上高が約17億円で、前年同期から約7.4億円の増加となりました。CD商品の発売が少なくても、大型ライブの開催が業績を押し上げています。
声優が実演するバンドリのライブのように、キャラクターIPへの愛着を、その場でしか味わえない体験に変える。その場が、確かな収益源になっています。
グッズを扱うMD事業も売上高約24.2億円で、前年から約7億円増えました。ここで見逃せないのは、MDの伸びがライブの盛り上がりと連動している点です。決算資料でも、大型ライブが多数開催されたことでライブ関連グッズが好調だったと説明されています。
ライブで熱が高まり、その熱がグッズの購入に流れる。一つの事業の盛り上がりが別の事業を押し上げる相互作用が、ブシロードの収益構造に組み込まれています。
なお、この四半期はスポーツ事業も伸びましたが、中核のプロレス団体はその後、選択と集中の一環で外部へ譲渡されています。ブシロードが今後の主軸に据えるのは、あくまで自社で育てる2次元IPとライブの掛け合わせです。
掛け合わせの効果は国内にとどまりません。
ブシロードのTCG事業は、第3四半期累計の海外売上比率が42.8%に達し、海外売上高は約81.2億円で前年から約8.9億円増えました。国内のTCGが調整局面にあっても、海外では英語版などが伸び続けています。
リアルライブで熱量を生み、デジタルで世界に広げる。この往復運動が、IPの寿命と到達範囲を押し広げているのです。
ここで視野を会社の外に広げると、ブシロードの動きが業界全体の潮流と重なっていることが見えてきます。
ぴあ総研の調査によれば、2024年の国内ライブ・エンタテインメント市場規模は7,605億円と過去最高を更新しました。年間動員数も8,561万人にのぼります。音楽配信が当たり前になった後も、リアルなライブに人とお金がむしろ集中しているのです。
リアルが効く理由は、市場規模だけでなくファンの消費構造にもあります。市場の大半は、少数の熱量の高いファンが支えているのです。
推し活総研の調査では、推し活市場は約4.1兆円に拡大しましたが、その内訳には大きな格差があります。消費額上位25%のコア層は年間平均約70万円を使う一方、残り75%のライト層の平均は約2.6万円でした。その差は約27倍に達します。
熱量の濃い少数のファンが、市場を桁違いに支えている。だとすれば、企業がやるべきことは、ライト層をどうやってコア層へ引き上げるかに尽きます。そしてリアルな体験は、まさにそのために効きます。配信では薄く広く届くだけだったファンが、ライブで一度濃い体験をすると、グッズを買い、次もチケットを取る常連へ変わっていく。ブシロードがライブに力を入れるのは、この引き上げが起きると分かっているからです。
数字は「掛け合わせれば残る」ことを裏付けました。ただし、ここで一つ、慎重に解いておくべき誤解があります。
参考: 2026年6月期 第3四半期決算説明資料 - 株式会社ブシロード / 2024年ライブ・エンタテインメント市場規模(確定値)- ぴあ総研 / 第3回 推し活実態アンケート調査 - 推し活総研

ここまで読むと、リアルなイベントさえやれば熱量が生まれて売上が伸びる、と受け取れるかもしれません。しかし、それは別の誤解です。
たしかに、企業のマーケティングにおいてリアルな顧客接点が見直されているのは事実です。

カウンターワークスがマーケティング・宣伝担当者410人に実施した調査では、2025年に強化したい施策として、Web広告、SNS運用に次いでポップアップストアが3位(22.0%)に挙がりました。
さらに、出店経験者が実感した効果のトップはブランド認知の向上で52.1%、効果がなかったと答えた人はわずか1%でした。
オンライン施策が飽和するなかで、現実の場で顧客と直接触れ合う価値が再評価されている。この潮流自体は、データからも確認できます。
参考:ポップアップストアに関する実態調査 - カウンターワークス
問題は、リアルでありさえすれば効くわけではない、という点です。
Z世代を対象にしたZ-SOZOKEN(Z総研)の調査では、デコレーションを楽しめるワークショップやポップアップへの参加意向が60%、関連キットの購入意向が63%にのぼりました。
ここで効いているのは、単に「リアルな場がある」ことではありません。友達と一緒に自分でデコレーションするという、自己表現の余白が用意されていることです。
つまり、人が熱量を注ぐのは、自分が関与でき、感情移入できる文脈を持ったリアルだけです。ただ会場を用意し、ただ物を並べるだけの無機質な体験は、リアルであっても熱を生みません。
ブシロードのライブが効いているのは、そこに掛け合わせる相手として「すでに人気のあるキャラクター」があるからです。
ブシロードは、そのファンの気持ちをライブの場でさらに強くし、買い物につなげています。中身のない箱だけ用意しても、掛け合わせる相手がなければ何も残りません。
リアルは万能の魔法ではなく、熱量と文脈があって初めて機能する。このことを念頭に置いておくことが欠かせないのです。
ここまでを整理します。
私たちが本当に戦うべき相手は、競合他社でも、予算の少なさでもありません。「とりあえず一発、派手な施策を打つ」という単発主義そのものです。点で打てば、どれだけ華やかでも消えれば終わり。費やした熱量も費用も、毎回ゼロに戻ってしまいます。
ブシロードの決算が静かに告げているのは、この単発主義から降りた会社が伸びている、という事実です。
この四半期、看板のTCGはむしろ減収でした。それでも会社全体の売上が伸びたのは、ライブやグッズといった、キャラクター人気と地続きのリアルな事業がそろって成長し、互いを押し上げたからです。その背後にあるのが、キャラクター人気をライブで深め、グッズの売上に変えるLIVE-MIXED ENTERTAINMENTという考え方です。
デジタルで無料でも広く届く時代に、その場でしか得られない熱量がむしろ価値を増していく。ブシロードの決算は、その説を静かに裏付けています。
小さなワークショップとSNS、店頭イベントとオンラインコミュニティ、既存顧客の声と新商品の体験会。手持ちの接点を二つ、三つと地続きにつなぐだけで、点は線になりはじめます。先に見たとおり、リアルな顧客接点を見直す動きは、すでにデータにも表れています。
裏を返せば、線になるよう掛け合わせない限り、費用も、高まった熱量も、施策が終わるたびにゼロへ戻り続けてきたということです。来期も再来期も同じ打ち上げ花火を上げるのか、それとも今ある火を絶やさない焚き火に切り替えるのか。その分かれ目は、次の一手をどう設計するかにかかっています。

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