NOKID編集部
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戸田恵梨香が演じた細木数子を、ロバート秋山がまるごと演じ直す。
しかも本編の配役には一切手をつけません。ドラマに出ているのはあの戸田恵梨香のまま。別に作った動画の中だけで、秋山と友近がコントにしてしまう。一見すると、ただの悪ふざけです。
でも、これはただのおふざけでは終わっていません。
実際、この動画はNetflixが発注したPR企画です。友近の公式サイトも、Netflixからのオファーで作られた特別企画だと明かしています。にもかかわらず、出来上がったものは宣伝の顔をしていない。芸人が本気で演じる一本のコント動画として広まり、その流れで本編を見る人が増えていく。
そして、これは一度きりの思いつきではありません。
同じことを、Netflixはすでに別の作品でもやっていました。佐藤健が主演した音楽ドラマ『グラスハート』では、劇中のバンドをお笑い芸人たちがそっくり演じる動画を、やはり公式が出しています。一度なら偶然、二度なら狙ってやっていると考えるのが自然です。
この記事では、この二つの動画に共通する作り方を3つに分けて見ていきます。読み終わるころには、「なんとなく面白い動画」が「考えて作られた仕掛け」に見えているはずです。
Netflixは二つの作品で、自分が本気で作ったドラマを、自分の手で芸人版に作り直しています。本編には手をつけず、別に用意した動画の中だけで芸人が演じる。この作り直しが、これから話す3つの共通点すべての出発点になっています。
最初の例が『グラスハート』です。
佐藤健が企画と主演を務めたこの音楽ドラマは、2025年7月31日からNetflixで世界配信されました(全10話)。劇中のバンド「TENBLANK」の曲は実際に配信・CD化され、音楽チャートの上位に入りました。俳優たちは演奏のために1年以上練習したと報じられていて、かなり手のかかった作品です。
その曲のミュージックビデオを、芸人だけで演じ直した動画を、Netflix Japanの公式チャンネルが「ENBLANK」という名前で出しました。配信から約1週間後の8月8日のことです。
演じたのは、佐藤健の役を狩野英孝、宮﨑優が演じたドラマーをキンタロー。、町田啓太が演じたギタリストをカカロニの栗谷、志尊淳が演じたキーボードを三四郎の小宮。本編のメンバーを、まるごとお笑い芸人に置き換えています。
ファンが勝手に作ったのではなく、Netflix自身が自分の作品を芸人版にした。ここがこの手法の出発点です。
二つ目が『地獄に堕ちるわよ』です。
戸田恵梨香が占い師・細木数子の半生を演じたこのドラマは、2026年4月27日から世界配信され、Netflixの国内ランキングで初登場1位になりました。戸田が17歳から晩年までを一人で演じ切った、見ごたえのある作品です。
その名シーンを、ロバート秋山と友近が演じるコント動画にして、Netflix Japanの公式YouTubeが出しました。配信から約1週間後の5月3日です。
動画には「あの名シーンをコントで完全再現(?)ぜひ本編で答え合わせを」という言葉が添えられ、見た人を本編へ送る作りになっています。
この二つの動画に共通しているのは、ひとつだけです。
本編に出ている俳優にはいっさい手をつけず、芸人版の動画だけを別に作る。本編は本気のまま手元に残し、崩すのは外に出した動画の中でだけ。この形が、これから話す3つすべての土台になっています。
まず、なぜわざわざ芸人に演じさせるのか。そこから見ていきます。
参考:Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」特別予告映像&メイキング写真を披露(2週連続1位) - 映画.com / 戸田恵梨香主演 Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」4月27日配信スタート - About Netflix / 戸田恵梨香も仰天!? ロバート秋山&友近のアドリブ全開「地獄に堕ちるわよ」再現コントが話題沸騰 - エンタメNEXT

なぜ、本編とは別に芸人版の動画をわざわざ作るのか。理由は、本気で作った作品ほど、それを崩したときに大きく笑えるからです。重く作り込んだドラマだからこそ、芸人が演じ直したときの落差が効いてきます。
笑いの大きさは、崩される側がどれだけ本気で作られているかで決まります。
『グラスハート』の俳優たちは演奏のために長く練習し、曲は本物として音楽チャートに乗りました。『地獄に堕ちるわよ』は戸田恵梨香が一人の人物の人生を背負って演じ、Netflix国内ランキングで1位を取りました。どちらも、軽い気持ちで作った作品ではありません。

この本気の重さが、笑いの出発点になります。
高いところから落とすほど大きな音がするのと同じで、本編が本気なほど、芸人が演じ直したときの落差が大きくなります。だから公式は、本編には絶対に手を入れないのです。
逆に言えば、崩す相手に重みがなければ、この笑いは生まれません。あなたの商品やお店に置き換えるなら、まじめに作り込んできたものほど、この手は効くということです。中身の薄いものを崩しても、落差が出ず、誰も笑いません。
落差は、崩す側が手を抜くと消えてしまいます。
ENBLANKの演奏は楽器を弾くふりだけですが、歌は狩野英孝が本気で歌っています。演者たちは、本編のシーンを細かいところまで拾って再現しています。秋山と友近も、ただ似せるだけでなく、表情や間の取り方まで作り込んでいます。
両側が、それぞれの方向に全力なのです。
本編は本気で重く、芸人版は本気で崩す。この全力どうしのぶつかり合いが、笑いを濃くしています。
ここから、うまくいかないパターンも見えてきます。
本編の重みを借りずに芸人がただ騒ぐだけの動画なら、内輪のウケ狙いに見えて滑るでしょう。逆に、真似が雑で似ていなければ、手抜きだと受け取られます。
笑いは「本編の本気」と「芸人の本気」の掛け算です。どちらかが欠けると、笑いも消えます。
両方がそろって初めて成立する。だから、簡単に真似できそうで、実はちゃんと作り込む必要があるのです。
これだけ大きく崩しているのに、本編の値打ちは下がりません。それを防いでいるのが、二つ目の共通点です。

ふつう、人気作のパロディはファンが勝手に作ります。すると、どこまで崩すかも、どう扱うかも、公式の手を離れます。ところがこの二つの動画では、その崩す役目をNetflix自身が引き受けています。誰かにいじられる前に、自分で先に笑いにしてしまう。だから本編に傷がつかないのです。

ここが、これまでのパロディと大きく違うところです。
人気作のパロディ動画は、ふだんはファンが作ります。公式はそれを黙って見ているか、止めるかしかできません。崩し方の良し悪しも、公式の手の外で決まります。
ところがNetflixは、その一番おいしい崩す役目を、自分の公式チャンネルと公式SNSで引き受けました。
ファンに任せていた役目を、公式が自分の手に取り戻した。ここが分かれ目です。
公式が自分で崩すと、その動画には「これは作品への愛のある遊びだ」という空気が自然につきます。
外の誰かが茶化せば、ただのからかいになります。でも、作った本人が自分へのツッコミとしてやれば、作品の値打ちは下がりません。むしろ「公式がここまでやるのか」という驚きが、見る人の面白さに変わります。実際、ENBLANKの動画にも、公式がここまでやることへの驚きの声が数多く寄せられました。
同じ崩しでも、誰がやるかで、からかいにも愛にもなる。その分かれ目が、出し手が公式かどうかの一点なのです。
とはいえ、公式がやっても、やり方を間違えれば作品は安くなります。二つの動画が守っている線引きを抜き出すと、こうなります。

本編の配役と世界観には手を入れない。笑いは別に作った動画の中だけにとどめ、本編そのものは茶化さない。芸人版はあくまで別の動画として切り分け、本編とは混ぜない。
この線を越えると、遊びが本編をおとしめる行為に変わります。
逆に、この線さえ守れば、思い切り崩しても作品はむしろ輝くということです。
そして、この手法でいちばん見落とされやすいのが、崩す中身よりも、それを出すタイミングです。三つ目の共通点です。

二つの動画は、どちらも本編の配信が始まったあと、作品が話題になっている最中に出されました。しかも宣伝の顔をした動画ではなく、それ単体で笑える一本のコンテンツとして出されています。それが面白がられて広まり、その流れで本編を見る人が増えていく。この出し方が三つ目の共通点です。

『グラスハート』の芸人版は、配信開始(7月31日)の約1週間後の8月8日に公開されました。『地獄に堕ちるわよ』のコントも、配信(4月27日)の約1週間後の5月3日です。
どちらも、これから始まる作品の予告ではありません。
すでに配信が始まって話題になっている作品に、もう一本べつの動画を重ねている。本編がいちばん見られている時期に、その熱の上にさらに動画を乗せる形です。
ここが、ふつうの番組宣伝と違うところです。
「この番組を見てください」という宣伝動画は、宣伝だとわかった時点で身構えられます。ところがこの二つは、宣伝の顔をしていません。芸人が本気でやる、それ単体で笑える動画です。
実際、秋山と友近のコントは、公開直後から短時間で大きな話題になりました。
宣伝として身構えられるのではなく、面白い動画として自分から見にいき、人にも勧めたくなる。Netflixが発注したPR企画でありながら、受け取る側には「面白いコンテンツ」として届いている。ここがうまいところです。

もう一つ大事なのが、誰を連れてくるかです。
芸人が出ることで、もともとそのドラマに関心のなかった人にも入り口ができます。狩野英孝のファン、秋山や友近のファン。その人たちは、ドラマの宣伝には反応しなくても、好きな芸人の動画なら見ます。
そして「本編で答え合わせを」という案内をたどって、本編にたどり着く。
ドラマのファンに向けて打つのがふつうの宣伝なら、こちらは作品の外にいる人を、芸人を橋にして連れてくる形です。話題になっている最中に、新しい人がこうして流れ込んでいきます。
これで、二つの動画に共通する3つの作り方が出そろいました。最後に、これをあなたの現場にどう持ち帰るかを整理します。

Netflixの公式パロディに共通していたのは、3つの作り方でした。
本編は本気のまま手をつけず、芸人版の動画だけを別に作って大きく笑わせる。その崩す役目を、ファンに任せず公式が自分で引き受ける。そして、配信が始まって話題になっている最中に、宣伝の顔をしない一本の動画として出し、本編へ人を送り込む。
これは、Netflixだからできた特別な話ではありません。「本編の本気」「演じ手の意外さ」「話題の最中に出すこと」という、分けて考えられる要素でできています。だとすれば、大きな予算がなくても、考え方そのものは応用できるはずです。
立場によって、持ち帰るところは変わります。
ブランドの担当者なら、真似るべきは芸能人を呼ぶ予算ではなく、本編はいじらず別物で崩すという形そのものです。配信やテレビの作り手なら、宣伝を配信前で終わらせず、話題になっている最中にもう一本重ねる発想が効きます。作品の品が気になる人は、本編は崩さず笑いを別動画の中にとどめる、という線引きを思い出してください。やるかどうかを決める立場の人は、まず「本編に崩すだけの値打ちがあるか」を見てください。中身の薄いものを崩しても、落差が出ないからです。
最後に、真似するための要点を5つに絞ります。
本編の値打ちは下げない。崩す役目は公式が自分で引き受ける。笑いは本編の外の動画にとどめる。出すのは配信の前ではなく、話題になっている最中。そして、演じ手は本気で崩す。中途半端は、必ず滑ります。
配信が始まった作品をさらに伸ばす最後のひと押しは、公式が自分で、本気でフザけることだった。
あなたが扱っている商品や作品にも、まじめに積み上げてきた値打ちがあるはずです。それを自分の手で気持ちよく崩せる余地は、どこかにないでしょうか。
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