NOKID編集部
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「センイル広告って聞いたことあるけど、実際何なの?」そう思っている方は多いでしょう。韓国では当たり前の文化として根付き、年間数百億円の市場を作っている「推し活の延長」にあるのがセンイル広告です。
センイル広告は、ファンが自ら資金を集めて「推し=アイドル・キャラ」の誕生日に広告を出すという...一種のイベントを開催するような活動です。そこには「売りたい」という意図はありません。ただ“届けたい”という想いだけで人の心を動かし、結果的にSNSでの拡散やファンの増加をもたらします。
日本でも、VTuberやアニメキャラへの広告で同様のことを実現させた例もあります。
これまでの広告は「企業が作り、消費者に届ける」一方通行のものでした。ですが、広告は企業が主導して作るものというのは、過去の常識にすぎません。今や情報発信者は企業だけでなく、ファンや顧客にも広がっています。
これからの広告に加える必要があるのは、“広告は共感を巻き起こす体験”という発想です。
つまり、発信者が一方的に語るのではなく、見る人の感情が動いて初めて広告としての役割を果たします。センイル広告がそれを証明しています。
そこで今回は、センイル広告についての詳細と、そのファン心理を具体的に紹介していきます。
広告は「商品を売るためのもの」だと一般的には考えられていますが、センイル広告は目的から違います。センイル広告は、韓国語で「誕生日広告」という意味の通り「売上を上げる」ことが目的ではなく、ファンが「推し」への愛情を表現するために作る広告なのです。
具体的には、K-POPアイドルや俳優の誕生日を祝うために、ファンがお金を出し合って作る広告のため、駅やバス停、お店など「人通りの多い場所」に飾られます。
「OSHINOMICS REPORT」によると、推し活で二次創作などをするファンは推しへの熱量が溢れているからだという回答も見られる通り、ファンは応援する気持ちをさまざまな形で表現したいのです。
このように普通の広告とは目的はまったく違うのです。企業が作る広告は「この商品を買ってください」「当社はこんな取り組みをしています」と、魅力を伝えて何らかの利益を考えます。一方で、センイル広告は「私たちの推しを知ってください」「推しの誕生日をお祝いしてください」と、街行く人々に伝えたいのです。これは、企業の利益追求とはまったく違う動機です。
つまり、自分のお金を稼ぐことが目的ではなく、応援したい気持ちを表す方法なのです。
参考:【事例紹介】23年2月 韓国センイル・応援広告事例紹介! - センイルJAPAN
この文化が生まれたのは、2016年頃のオーディション番組がきっかけと言われていますが、根底にあるのは韓国のファンの団結力が強いからだと考えられます。
K-POPファンは、単にコンサートに行ったりCDを買ったりするだけではありません。アルバムを大量に共同購入してチャートランキングを上げたり、音楽番組の投票を組織的に行ったりします。そんな活動の延長線上に、センイル広告が生まれました。
例えば、K-POPアイドルグループのメンバーが誕生日の際に、ファン同士で費用を出し合ってソウルの江南駅内に応援広告を出してお祝いするといった取り組みなどです。
ですが、この広告で何かを売ったわけではありません。ただ「自分たちの推しの誕生日をお祝いしたい」という気持ちだけでした。
このように、センイル広告は従来の「売るための広告」とは違う、感謝を伝えることが目的の広告なのです。
参考:【韓国センイル広告】弘大入口(ホンデイック)駅大人気サイネージがリニューアル!新価格もご案内します! - Oshito
参考:23年3月渡韓ログ🇰🇷#1〜推し(BTSユンギ)のセンイルパーティー編〜 - note
「アイドルの広告は事務所が出せば良い」と思う人は多いでしょう。ですが、ファンにとっては「無駄遣い」ではありません。推しの良さを世の中に広める「投資」のように考えているのです。
実際、韓国に留学経験のある知人にインタビューしたところ、センイル広告に出資しているファンの友人から「推しの知名度が上がって、新しいファンが増えるのを見ると、投資して良かったと思う」「同じ推しのファン同士で友達もできる。お金では買えない価値がある」という話を聞くことが珍しくない話だったと言っていました。
ファンがセンイル広告にお金を使う理由を、さらに具体的に考えてみましょう。
まず、「推しの知名度向上への投資」があります。センイル広告を見た人が推しに興味を持ってくれれば、新しいファンが増えます。ファンが増えれば、推しの活動がより安定し、より大きなプロジェクトに参加できるようになります。
実際に、センイル広告をきっかけに推しを知ったという人は多く、ファンコミュニティの拡大に確実に貢献しています。
次に、「ファンコミュニティでの地位向上への投資」があります。センイル広告を企画したり多くお金を出したりすると、他のファンから尊敬(信頼)されます。その結果、ファンのコミュニティ内での発言力も強くなります。これは、社会心理学で言う「社会的地位の獲得」という人間の基本的な欲求を満たします。
また、「推しとの関係を強化するための投資」という側面もあります。センイル広告を見た推し本人が、SNSで感謝のメッセージを投稿することがあります。その時、ファンは「自分の気持ちが推しに届いた」という実感を得られます。これは、お金では絶対に買えない価値です。
さらに、「自分自身の満足度向上への投資」も重要です。推しの写真が街中に飾られているのを見ると、言葉では表現できないほど嬉しい気持ちになります。
「私がこれを実現したんだ」という達成感、「推しが喜んでくれている」という充実感、「同じ推しのファンと一緒に何かを成し遂げた」という連帯感などの感情は、ファンの人生を豊かにします。
実際、以下の調査結果も出ています。
上図の通り、「他者のために行う支出」は「自分のために行う支出」よりも幸福度を高めることが分かっています。
センイル広告への支出は、まさにこの「他者(推し)のための支出」にあたります。ファンが「投資」と感じるのは、この幸福度の向上を実感しているからでもあるのです。
また、株式会社ジェイアール東日本企画のjeki応援広告事務局(Cheering AD)が調査した「応援広告の浸透状況を把握するための調査(「推し活・応援広告調査2023」)」によると、ファン同士のつながりが深くなったことをファンが実感しており、ひとつのイベントを主催するようなイメージがあるかもしれません。
つまり、ファンにとってセンイル広告への支出は無駄遣いではなく、推しの成功とコミュニティでの地位、そして自分の満足のための「投資」なのです。
参考:応援広告の浸透状況を把握するための調査(「推し活・応援広告調査2023」) - jeki
「ファンの趣味の活動」と軽く見られがちなセンイル広告ですが、韓国では年間300億円規模の市場を形成しています。これは、日本の広告業界でも無視できない規模です。
韓国のセンイル広告市場は、2010年頃は小さな市場でした。しかし、K-POPの世界的人気とともに拡大し、現在は年間300億円以上の規模だと推計されています。
この成長を支えているのは、ファンの高い支出意欲です。株式会社ジェイアール東日本企画のjeki応援広告事務局(Cheering AD)が調査した「応援広告の浸透状況を把握するための調査(「推し活・応援広告調査2023」)」によると、ファンがセンイル広告に使用しても良いと思っている金額は1人あたり47,000円となっています。
つまり、センイル広告は、韓国では他の広告のように単体でビジネスになるほどの経済圏を形成しているのです。
参考:【推し活・応援広告調査2023】-また出したい9割、もっと推したい8割-「応援広告」がもたらす"推しサイクル"とは? - jeki
参考:応援広告の市場規模は約369.8億円!?推し広告(センイル・応援広告)について1222人に独自アンケート!センイルJAPAN PR Times
日本では「地下鉄にアイドルのための広告」があるのは特別なことに思えます。ですが、韓国の地下鉄では、アイドルの誕生日広告を見ない日はないと言えるほど、当たり前の光景なのです。
一般の韓国人からも「また今日も誰かの誕生日なんだな」「ファンの愛情って素晴らしいな」そんな風に受け取られているのです。
実際に、韓国に住む友人にセンイル広告のことを取材してみたところ、日常的にセンイル広告を見かけるだけでなく、センイルケーキを買って自宅でお祝いする人もいるようでした。
例えば、韓国の主要駅である江南駅、弘大駅、明洞駅では、当然のようにセンイル広告が掲載されます。改札口や乗り換え通路には、常に複数のアイドルの写真や動画が流れています。もちろん、駅だけに限らず街頭ビジョン広告やバスのラッピング広告など、さまざまな表現方法があります。
この文化が受け入れられる理由は、韓国で「情(ジョン)」という、仲間を大切にする文化があるためかもしれません。センイル広告も、その「情」の表れとして理解されやすいと考えられるからです。
つまり韓国では、センイル広告は特別なものではなく、日常的な風景として完全に社会に根付いているのです。
多くの人は「センイル広告は韓国のK-POP限定の文化」だと思っています。ですが日本でも同様に、日本独自の「推し文化」と組み合わせることで、韓国以上に大きな市場を作る可能性があります。
日本には、韓国とは違う独自の推し文化があります。特に注目すべきは「VTuberへの推し文化」です。VTuberファンは非常に熱心で、グッズ購入やイベント参加に積極的です。
VTuberファンとK-POPファンには共通点があります。どちらも「推し」への愛情が深く、その愛情を行動で示したがります。オンラインでのコミュニティ活動も活発で、クラウドファンディングなどの共同企画に慣れています。
さらに、日本にはアニメ・ゲーム文化もあります。アニメキャラクターやゲームキャラクターの「誕生日」を祝う文化は既に存在します。これらとセンイル広告を組み合わせれば、新しい市場が生まれる可能性があります。
例えば、人気VTuber「イブラヒム」の誕生日である7月25日に、東京・大阪の屋外ビジョンにて応援広告の動画が放映され、現地に見に行ったファンのSNS投稿で溢れました。ビジョン広告に限らず、YouTube広告を配信するケースもあります。
つまり、日本で馴染みのあるVTuberやアニメ文化とセンイル広告を組み合わせることで、韓国とは違う新しい市場を作れる可能性があります。
参考:VTuber応援隊を創設!VTuberの推し広告を積極受付! - センイルJAPAN
「センイル広告は特殊な広告」だと思っているかもしれません。ですが、センイル広告が示す「顧客が主体となる広告」「感情価値を重視する広告」という考え方は、これからの広告業界全体のスタンダードになる可能性があります。
従来の広告は「企業が作って消費者に見せる」一方通行でした。ですが、SNS時代の今は消費者も情報発信者になっています。企業と消費者の関係は、対等に近づいています。
センイル広告の、ファンが企画し、ファンが資金を出し、ファンが拡散する流れは、変化を先取りしています。そして企業はそれを支援する役割です。この「共創型」の仕組みは、他の業界でも活用できます。
実際、初音ミクが広く知られるようになったのは、最小限の設定&ファンの二次創作を後押しし、ファン自身が作品を作って拡散するファン主導の仕組みだったことが大きく影響しています。
つまり、このような応援の仕方があることを国内で知ってもらえれば普及する可能性があるのです。
関連記事:【IP展開事例】“ただの歌声合成ソフト”だった初音ミクが今も人気の理由は共創にあった?
また、センイル広告では「愛情」「感謝」「共感」といった感情価値が重視されます。これも、現代のマーケティングで重要視されている考え方です。商品の機能だけでなく、感情的なつながりが重要になっているのです。
例えば、スターバックスでは「Youth Connection @ STARBUCKS」という、顧客が企画したイベントを店舗で開催する取り組みを始めています。顧客が企画し、スターバックスが場所を提供する仕組みは、センイル広告の考え方と似ています。
学術的には「symbolic involvement(象徴的関与)」と呼ばれ、その商品やブランドに“気持ちの面で強く関わっている”顧客ほど、自分だけが特別に扱われている、気持ちをわかってもらえていると感じた時に、より深く満足してファンになってくれるというデータもあります。
つまり、センイル広告が示す「顧客が主体となる」「感情価値を重視する」という考え方は、広告業界全体の未来を先取りしているのかもしれません。
ここまでのポイントをまとめます。
センイル広告は、ファンの愛情や感謝が主導する「感情の広告」であり、今後の広告業界全体に影響を与える新しい流れを象徴しています。
K-POPだけでなく、日本のVTuberや歌い手などのセンイル広告も一般化しつつあることから、ファンの愛情が経済を動かし、広告を文化に変えていくという最前線にセンイル広告はあるのです。
大切なのは、センイル広告を「新しいビジネスチャンス」として見るだけでなく「新しい文化」として理解することです。ファンの純粋な愛情に共感し、その文化を一緒に育てていく姿勢を理解し、自社へ活かしていきましょう。
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