NOKID編集部
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「昔ヒットした商品をもう一度出せば売れるんじゃないか?」
企画会議でそんな提案をしたことがある人は多いでしょう。ですが、大抵の場合「今さら誰が買うの?」「時代が違うでしょ」と却下されます。確かに、単に昔の商品を復刻しただけでは、ほとんどのケースで失敗します。
ところが2024年、ある商品が「平成レトロブーム」に乗って爆発的なヒットを記録しました。それが「ボンボンドロップシール」です。発売から数ヶ月で製造が追いつかない事態となり、SNSでは連日投稿が溢れています。
なぜ、このシールはリバイバル商品として成功したのでしょうか? そして、その成功から私たちは何を学べるのでしょうか?
そこで今回は、ボンボンドロップシールの徹底分析を通じて、「懐かしさ」を武器にしながらも現代市場で勝つための戦略を明らかにします。あなたの会社に眠っている過去の資産を、今こそ蘇らせるヒントがここにあります。
発売された「ボンボンドロップシール」は、発売直後から予想を大きく上回る売れ行きを記録しました。Yahoo!ニュースによれば、この商品は発売後すぐに品薄状態となり、製造が追いつかない事態に陥ったのです。
筆者の知人で、小・中学生向けの教育事業を展開する企業に勤めている人も、ボンボンドロップシールで子どもたちが手帳を作り、シールを交換するのが流行っていると言っていました。
このことから分かるのは、消費者が求めているのは「昔と同じもの」を再販するというより、「昔の記憶を現代の文脈で再体験できるもの」だということです。
ボンボンドロップシールは平成時代のシール文化を「現代的にアレンジ」した商品だと言えます。
参考:「ボンボンドロップシール」製造追いつかず…懐かしの“シール交換”が令和に再燃の理由は?大人買いする平成女児たちも【大分発】 - Yahoo!ニュース

「ボンボンドロップシール」は、文具メーカーの株式会社クーリアが開発(登録商標)しました。2024年3月の発売以来、ぷっくりとした立体感とつやつやした質感が特徴で、SNSでのシール手帳などの動画が火付け役となり大ヒットしています。
また、2020年代にはレトロブームの兆しが既に見えていました。「昭和レトロ」「平成レトロ」というキーワードがSNSで増加し、特に若い世代の間で「自分が生まれる前の時代」への関心が高まっていたのです。
さらに、コロナ禍を経て、人々の消費行動に変化が見られました。デジタル疲れから「アナログな体験」への回帰、外出制限による「自宅での楽しみ」の需要増加、SNSでの「映える投稿」競争の激化といった要因が、シール文化の復活に最適な土壌を作っていました。
例えば、InstagramやTikTokでは「ボンボンドロップシール」のハッシュタグが急増し、ユーザーが自分のコレクションを見せ合ったり、シールを使ったデコレーション作品を投稿したりする文化が自然発生的に広がりました。
ものに溢れる現代においては、商品そのものの魅力に加えて「SNSでシェアしたくなる体験」が組み込まれていることが不可欠だからこそブームとなったことも背景にあるでしょう。
つまり、ボンボンドロップシールの成功は、懐かしいシールの商品を再び出したという単純な話ではなく、平成の記憶とSNS時代の体験消費を融合させた結果なのです。

クーリエによると、発売当初から売れ行きは好調で、24年12月にサンリオキャラ、ディズニーなどの他社IPとのコラボシールをサンスター文具から発売したことで、さらに人気が拡大したということです。
参考:「平成女児」「シール交換」…ボンボンドロップシールブームの背景は - 毎日新聞
参考:デコに最適ぷっくり立体感の大ヒットシール 開発者に聞いた - 中日BIZナビ
「平成女児」という言葉が2025年の新語・流行語大賞にノミネートされた背景を考えてみましょう。この言葉は、1990年代〜2000年代に少女時代を過ごした世代を指し、彼女たちが共有する独特の文化体験を象徴しています。
彼女たちは、プリクラ、たまごっち、ぷっくりシール、キラキラペン、交換日記など、独特の「女児文化」の中で育ちました。これらによって友情を育み、自己表現を学び、コミュニティに所属する手段でした。
現在、この世代が大人になって購買力を持ち、かつSNSネイティブとして発信力も持っています。彼女たちにとって、ボンボンドロップシールは「子供の頃の自分」と「今の自分」をつなぐ架け橋となったのかもしれません。
まさに同世代と言える筆者も、昔流行ったシールが今の技術ではこんな風になるのかと懐かしさを感じました。
例えば、Instagramでは「平成女児」というハッシュタグで、当時の文化を振り返る投稿が大量にシェアされています。これは当時を知る世代が懐かしさに浸ったり、若年層が新しい発見として注目が集まった結果かもしれません。
つまり、平成女児ブームは特定の商品が生んだ結果というより、ボンボンドロップシールなどをきっかけにして連鎖的に話題が生まれた現象と言えます。
参考:新語・流行語にノミネート「平成女児」とは 平成キッズ文化が再燃のワケ - テレ朝NEWS
過去の文化が再び話題になるのは、当時流行ったものを懐かしむ気持ちや、今だからこそ新鮮に感じられる心理ではないでしょうか。
さらに興味深いのは、この「平成女児ブーム」がミレニアル世代だけでなく、Z世代にも広がっている点です。平成時代を直接体験していないZ世代の若者たちが、なぜ「平成レトロ」に惹かれるのでしょうか?
Z世代にとって、平成時代の文化は「古臭い」と感じるものもあるかもしれませんが、今だからこそ新鮮に感じられることもあるでしょう。
スマホもSNSもない時代のアナログな遊び、物理的にシールを貼ったり交換したりするコミュニケーション、デジタルでは再現できないキラキラ感など、これらはすべて「体験したことのない新しさ」として映ります。
なにより、昔流行ったものはそもそも商品の魅力がある=世代を超えても好まれる要素を秘めているからとも考えられます。
つまり、Z世代にとって平成レトロは、現代のデジタル過多への反動として求める「新しい体験」なのです。
人間の記憶は美化されるため、「昔ヒットした商品をそのまま再発売すれば売れる」と考えるのは、ありがちですが危険な誤解かもしれません。
認知心理学の研究によれば、人間の記憶は時間とともに美化される傾向があります。私たちは過去の商品を「完璧だった」と記憶していますが、実際にはその時代の技術や美意識、流通の制約の中で「その時代なりに最善」だっただけです。
当時の商品をそのまま現代に持ってくると、「あれ?こんなものだったっけ?」という失望を生みます。
1990年代のゲームをそのままの画質・操作性で復刻しても、多くの人は「思い出の中の方が良かった」と感じるでしょう。記憶の中では完璧だったグラフィックも、実際には粗く、操作性も現代の基準からすれば不便なのです。
さらに深刻なのは、懐かしさを感じるのは過去を知っている世代だけであり、その世代だけをターゲットにした商品は市場規模が限定され、長期的な成功が望めないことです。
つまり、単なる復刻は「記憶の中の理想」にも「現代の基準」にも届かない、中途半端な商品になってしまうのです。だからこそ、現代らしい要素を加えることが必要になるのではないでしょうか。

商品の「形」は時代とともに変わりますが、その商品が満たす欲求は普遍的です。ボンボンドロップシールを理解するためにも、まず平成時代のシール文化を振り返っていきましょう。
1990年代〜2000年代、少女たちの間で大流行したシールには主に3つの系統がありました。
硬いプラスチック製で、立体的な厚みがあるシール。キャラクターや果物、星などのモチーフが人気でした。コレクション性が高く、友達と交換する文化が生まれました。
表面がぷっくりと盛り上がった樹脂製シール。触ると柔らかく、独特の質感がありました。キラキラ感と立体感が特徴で、視覚的にも触覚的にも楽しめました。
ホログラムや金銀の箔押しなど、光を反射してキラキラ輝くシール。女児の「可愛いもの好き」「キラキラ好き」という嗜好に完璧にマッチしていました。
現代では物理的なシール交換に加えて、SNSでの「見せ合い」という形で交換文化が継承されています。
InstagramやTikTokで自分のコレクションを投稿し、他の人のコレクションを見て「いいね」やコメントをするというのも、形を変えた「交換文化」と言えるでしょう。
世界中で人気を維持しているポケモンも、コミュニケーションツールの構造を持っていることが影響していると分析されているように、「人間同士の関わりが絡むもの」がキーワードなのは間違いないでしょう。
関連記事:ポケモンが海外でも人気の秘密とは?IP収益1位にしたメディアミックス展開を分析してみた
何度もお伝えしていますが、過去の商品を再販するだけでは当時を知る世代が懐かしむだけです。
ボンボンドロップシールの事例から学べるリバイバル商品をヒットさせるポイントは、変えてはいけない本質部分と、変えるべき部分を正確に区別できるかにかかっているということです。
では、成功するリバイバル商品とは何でしょうか? それは「本質的な魅力や機能」を残しながら、「現代の文脈(新しい世代への適応)」に適応させた商品です。
ボンボンドロップシールの場合、本質的な魅力として残したものは以下が該当します。
・キラキラした見た目の特徴
・コレクションする楽しみ
・友達と交換するコミュニケーション方法
・持ち物をデコレーションする自己表現
これらは平成時代のシール文化が持っていた核心的な価値です。そしてこれらは、時代が変わっても人間の根源的な欲求に根ざしているため、色褪せることがありません。
一方、現代に合わせた価値として追加されたのは以下が挙げられます。
・SNS映えするデザイン(ぷっくりした質感)
・現代の美意識に合った色彩・イラスト
・開封動画やコレクションを発信できる体験
・今の若年層でも楽しめるシンプルさ
さらに、使い方の自由度も重要です。平成時代、シールは主にノートやアルバムに貼るものでしたが、現代ではスマホケースのデコレーションなど、用途が広がっています。
つまり、成功するリバイバルは、過去にヒットした顧客にとっての価値と現代ならではの価値を融合させた「第三の商品」を作ることなのかもしれません。
リバイバルビジネスに取り組む際には、現代ならではの要素を取り入れていく発想を意識してみてください。
関連記事:【2025年版】アニメのリメイク(リバイバル)でノスタルジーを活かすべき?事例を分析
現代の商品販売には、「良いものを作ればきっと売れる」と考えるのではなく「拡散される仕組み」を商品設計に組み込めるかにかかっています。
ボンボンドロップシールの成功は、商品の質だけでなく、SNS拡散との相性の良さにもあります。
平成レトロによって、当時を懐かしむ大人たちが注目しやすいきっかけや、大人買いが発生することで子どもたちにも広がるきっかけとなったのでしょう。
さらに、ユーザー生成コンテンツ(UGC)を促進する仕掛けも巧妙でした。コレクションを並べて撮影したくなるパッケージデザイン、ノートに貼った様子を投稿したくなるシールの可愛さなどが、ユーザー自身がコンテンツクリエイターになる動機を生んでいます。
つまり、ボンボンドロップシールは「商品」であると同時に、「SNSコンテンツの素材」として機能するように設計されているのです。
ボンボンドロップシールのもう一つの成功要因は、親子で楽しめるという点もあるでしょう。
「平成女児」世代は、現在20代後半〜30代となり、自分の子どもを持つ場合もある年齢です。彼女たちにとって、ボンボンドロップシールは自分が子供の頃に楽しんだ文化を「自分の子供と一緒に楽しむ」機会になります。
なぜなら、「自分が好きだったもの」を子供にも体験させたいという欲求は強力です。しかも、現代版は自分が子どもの頃よりも製造技術が進化しているため、「私の時代よりもっと可愛くなっている」という満足感があります。
例えば、SNSでボンボンドロップシールの投稿をきっかけに、「ママもこれ集めてたんだよ」という会話から、親の子ども時代の話に広がっていくようなことが挙げられます。
つまり、ボンボンドロップシールは単なる商品ではなく、世代を超えたコミュニケーションと文化の伝承を生む「メディア」として機能しているのです。
ここまでの通り、リバイバルの成否は「本来持つ魅力」と「時代に適応させる魅力」を見極めることにかかっています。
改めて、ボンボンドロップシールの事例に沿って、それぞれを分けて整理してみます。
・キラキラ感(好まれるデザイン要素)
・コレクション性(集める楽しみ)
・コミュニケーションツールとしての機能
・自己表現の手段
・デザイン言語(現代の美意識に合わせる)
・流通させる方法(オンライン販売、SNS連携)
・用途の提案(現代のライフスタイルに合わせる)
・コミュニケーション形態(リアル交換→SNS共有)
個人的に大切だと感じるのは、同じものがあっても「使い方・遊び方」の提案次第で結果が大きく変わることです。
例を挙げると、シュレッダー機能を持つハサミを「ちらし寿司などに使う海苔を細かく刻める道具」にしたら大ヒットした話は有名です。
新しい遊び方を提案できないかという視点も意識してみてください。
ここまでのポイントをまとめます。
ボンボンドロップシールの成功は、過去のヒット商品をリバイバルする際にとても参考になる事例です。この事例から学ぶべき最も重要な教訓は、「懐かしさは強力な武器だが、それだけでは世代を超えるほどの持続性は生まれない。現代の文脈で再解釈し、新しい価値を加えることが重要になる」ということです。
あなたの会社にも、倉庫や資料室に眠っている過去のヒット商品、使われていないIP、忘れられたブランドがあるかもしれません。それらは「古いもの」ではなく、「まだ発掘されていない宝」かもしれません。
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