2025.06.03

『一枚の絵のなかに、時間を閉じ込める。』ループアニメに魅せられた飴日和の世界

クリエイターの取材を通して、プロとしてのマインドやノウハウを記録していく「NOKID CREATIVE LOG」のクリエイターインタビュー企画。

イラストレーター／アニメーターとして活動する飴日和（あめびより）氏は、ループアニメーションを中心に、独自の世界観で物語を紡ぐ映像表現を手がけるクリエイターです。彼の作品には、ただ美しいだけではない、時間の流れや空気感までも閉じ込めたような奥行きがあり、見る人の感情を静かに揺さぶります。

X（旧Twitter）やYouTubeを中心に作品を発信し、CDジャケットやMVアニメーションなど、さまざまな分野で活躍を続ける飴日和氏。アナログとデジタルの境界を行き来するような繊細な描写力と、背景美術への強いこだわりが、作品の世界観をより一層際立たせています。

本インタビューでは、同氏がイラストを描き始めたきっかけから、ループアニメーションに惹かれた理由、背景へのアプローチ、そして今後の展望までを深掘りしていきます。

今回は、「イラストとアニメーション、どう両立する？」「ループアニメの魅力って何？」と考えている方に向けて、飴日和氏の創作の軌跡とマインドをお届けします。

創作の原点ー幼少期の環境と影響

iBerry：絵を描き始めたきっかけを教えてください。

飴日和：幼少期、我が家にはゲーム機や地デジ対応のテレビがなかったので、外遊びや工作、絵を描くことに多くの時間を使っていました。当時『イナズマイレブン』に夢中で、コロコロコミックやゲーム雑誌のイラストをよく模写していた記憶があります。描いた絵を喜んでくれたり、褒めてくれる人が身近にいたことが、絵を好きになるきっかけだったと思います。将来を意識し始めて、本格的に取り組むようになったのは高校生からです。

iBerry：本格的に絵に取り組まれるようになった高校時代に影響を受けた作品や人物はいますか？

飴日和：TVアニメ『冴えない彼女の育てかた』を見て、クリエイティブの世界に憧れをもちました。中でも、登場人物の澤村・スペンサー・英梨々に強く惹かれ、そのキャラクターがきっかけでイラストレーターという職業を知ることになります。高校では美術部で水彩画を描いていて、アンドリュー・ワイエスやアントニオ・ロペス・ガルシア、磯江毅といった画家たちから影響を受けました。デッサンをしているときに、部活動の先生から「五感を使って描くように」とアドバイスをもらい、今でもその言葉を大切にしています。

ループアニメーションへの世界に魅せられて

iBerry：イラストからアニメーションへと活動の幅を広げられた経緯を教えてください。

飴日和：イラストで描きたい世界観がうまく表現できず、悩んでいたときに『インディーアニメーション』の存在を知り、アニメだったら...と実験的な気持ちで始めてみたのが大きな転機でした。ちょうどアニメMVが注目され始めた時期で、私も好きなバンドの楽曲をお借りして、自主制作アニメMVを作りました。しかし、ひとりで作り上げるには時間がかかりすぎることや1カットにコストをかけられないことが自分には合わず、次第にループアニメを中心に制作するようになります。その後、制作した作品がSNSで大きな反響をいただき、お仕事につながりました。

iBerry：ループアニメーションならではの魅力を教えていただいてもいいですか？

飴日和：アニメ、イラストどちらの要素も併せ持ちながら、両者とも違った魅力を表現できる点に惹かれています。絵の中にある「時間」には始まりや終わりがなく、それでいて止まっているわけでもない、曖昧で連続的な感覚が好きです。まるで現実から別の世界をリアルタイムで見ているような、不思議な気持ちになります。例えば、『STUDY WITH MIKU』という動画に描かせていただいたループアニメ作品は、作業動画のコンセプトとも合っていて、理想的な空間を作り出せたと思います。一枚の絵に対するこだわりを保ちつつ、繰り返しの動きで独特の世界観を演出できるのが魅力ですね。

緻密な背景描写の原点は新海誠監督作品

iBerry：作品の背景描写や配色についても緻密に描かれている印象がありますが、こだわりを教えていただいてもいいですか？

飴日和：私の作品は、実在感を掴むために背景の描き込み量を増やすことがよくあります。タッチは厚塗りが基本で、色のトーンは作品によって様々です。絵でありながら、現実に近い説得力（重み）のある描写を心がけています。また、没入感も大切にしているので、作中の季節と同じ時期に制作したり、作品に合った音楽を聴きながら描いたりしています。

iBerry：現実に近い状況で制作される事でより説得力が増すのですね！

幻想と現実が混じりあう背景世界への憧れ

iBerry：背景をご制作されるにあたって、影響を受けたクリエイターや作品はありますか？

飴日和：緻密なファンタジー世界が好きで、毎日pixivをチェックしていた時期がありました。その頃の好みが、いま自分が描いている世界観の原点となっているかもしれません。また、『君の名は。』は、これまでの人生で最も印象に残った映画で、大きな影響を受けました。新海誠監督作品の、幻想と現実が自然に混ざり合うようなマジックリアリズム的な背景描写に憧れを抱いています。

仕事への姿勢と今後の展望

iBerry：お仕事としてイラストをご制作される際、どのような点を意識されていますか？

飴日和：クライアントの要望や条件をしっかりと把握し、その中で自分がどこまで表現できるかを考えます。描いたことのない色やスタイルに挑戦することもあり、それが新しい発見や成長につながっています。

背景制作の仕事への挑戦と、ループアニメの更なる進化

iBerry：今後、挑戦してみたいことはありますか？

飴日和：ゲームやアニメの背景制作に携わってみたいです。静止画の表現はあまり追求してこなかったので、積極的に取り組んでみたいと思っています。もちろん、現在メインに制作しているループアニメにおいても、その特長をさらに引き出せるような新しい試みに挑戦していきたいですね。そしてこれからも、「自分が描かなければ見られない世界」を大切に描いていけたらと願っています。

iBerry：これからの益々のご活躍を楽しみにしております！