NOKID編集部
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靴は、試着して買うものです。
足を入れ、立ち上がり、数歩歩いてみる。フィット感、ヒールの安定感、つま先のゆとり。そのすべてが、自分の足でしか確かめられません。靴という商品の本質は、物理的な体験に根ざしています。
だから、こう思うのは自然なことです。
「バーチャルタレントが靴を履いたところで、何がわかるのか。足の裏の感覚もない存在が、靴の良さをどうやって伝えるのか」
2026年3月、婦人靴ブランドのダイアナ(DIANA)が、バーチャルタレント・キズナアイをプロモーションモデルに起用しました。パルコを含む全国11店舗での店頭展開、撮り下ろしビジュアル、限定ノベルティ、そしてVRChat向けのスニーカー3Dモデルの無料配布。靴ブランドとしては異例のコラボです。
この施策に対して感じる違和感は、間違っていません。実体のない存在に、実体のある商品は売れない。その直感は正しいです。
ただし、施策の設計を見る限り、ダイアナの狙いは単に「靴を売る」ことではなさそうです。
この事例の構造を理解すると、バーチャルタレント起用の判断基準が変わります。「売れるか」ではなく、まったく別の問いが見えてきます。

ダイアナのプレスリリースによれば、今回のコラボは2026年3月12日から29日までの18日間限定です。
キズナアイが2月にリリースした新曲「KAMACHO」の衣装に、ダイアナのスニーカーブランド「+diana」のボリュームソールスニーカー(税込19,800円)を着用した撮り下ろしビジュアルを制作し、店頭とSNSで展開しています。


展開店舗は、札幌、池袋、心斎橋、名古屋、広島のパルコ各店を含む全国11店舗。税込10,000円以上の購入でアクリルスタンドまたはクリアファイル、20,000円以上で両方がもらえます。

注目すべきは、もう一つの施策です。キズナアイが着用したスニーカーの3Dモデルを、クリエイター向けマーケットのBOOTHで期間限定無料配布しています。この3Dモデルは、ソーシャルVRプラットフォームのVRChatで使えます。
つまりダイアナは、リアルな靴だけでなく、バーチャル空間で「履ける」靴も同時に提供しています。
参考:DIANA featuring Kizuna AI - PR TIMES

コラボ相手の選び方にも、設計意図があります。
キズナアイは2016年に活動を開始し、「バーチャルYouTuber」という言葉そのものを生み出した存在です。公式サイトによれば、2022年に「スリープ」と呼ばれる無期限の活動休止に入り、丸3年の沈黙を経て2025年2月に音楽アーティストとして復帰しました。9月にはアルバム「Homecoming」をリリースし、Zepp Shinjukuで復帰コンサートを開催。
2026年3月時点でYouTube登録者は308万人を維持しています。
ここで重要なのは、キズナアイの現在の立ち位置です。にじさんじやホロライブのように毎日配信でファンと交流するVTuberが「親しみやすさ」を売りにしているのに対し、キズナアイは3年の休止を経て「バーチャル文化の歴史的なアイコン」という象徴的なポジションを獲得しています。
ダイアナにとってキズナアイは、特定のファン層への集客ツールではありません。「バーチャル文化を代表する存在と手を組んだ」という事実そのものが、ブランドの文化的な立ち位置を動かす記号として働いています。
参考:BIOGRAPHY - Kizuna AI official website

施策の各パーツを見ると、どれも「靴の機能を伝える」ことではなく、「文化の接続点をつくる」ことに向いています。
まず、パルコでの展開です。今回のコラボ対象11店舗のうち、パルコが5店舗を占めています。
ただし、これはコラボのために特別にパルコを選んだということではなく、ダイアナの店舗一覧を見ると、札幌、池袋、心斎橋、名古屋、広島のパルコはいずれもダイアナの常設出店先です。残りの6店舗(ルミネエスト新宿、ルミネ横浜、ららぽーとTOKYO-BAY、エスパル仙台、ソラリアプラザ、東京ソラマチ)も同様です。
興味深いのは、ダイアナが出店している百貨店(博多阪急、玉川高島屋S・Cなど)がコラボ対象に含まれていない点です。
コラボ商品が+diana(カジュアルスニーカーブランド)であることを考えれば、百貨店よりもファッションビルの方が商品の性格に合うという判断があった可能性があります。
加えて、パルコはアニメやゲームのポップアップストアを多数展開しており、2024年にはVTuberとして初めてホロライブの星街すいせいがパルコの企業広告に起用されるなど、バーチャル文化との結びつきが強い商業施設です。こうした環境が、結果的にVTuberコラボとの相性を高めていると考えられます。
婦人靴の店舗にVTuberファン(若年男性を含む)が足を踏み入れるのは、心理的にハードルが高い行為です。しかしパルコでのコラボイベントという文脈が加わることで、そのハードルは下がります。
参考:DIANA featuring Kizuna AI - PR TIMES

VRChat用3Dモデルの無料配布は、さらに本質的な設計です。
この施策は実店舗への集客のためではありません。メタバース空間(仮想の3D世界)で「推しと同じスニーカーを自分のアバターに履かせる」という体験を提供しています。
バーチャルタレントが物理的に靴を試着できないという弱みを、逆にバーチャル空間での試着体験に変換しているわけです。
さらに、VRChat内でそのスニーカーを履いたアバターが動き回ること自体が、ブランドの広告になります。ユーザー自身が「歩く広告塔」になる設計です。BOOTHでの無料配布という手法も巧みで、VRChatユーザーが日常的に利用するプラットフォームにダイアナが入り込むことで、これまでまったく接点のなかった層にブランド名が届きます。

ノベルティのアクリルスタンドやクリアファイルは、推し活(好きなアーティストやキャラクターを応援する活動)における「応援の証拠」として機能します。
ファンにとって、コラボ商品を買って限定グッズを手にすることは、推しの活動を支えた証明です。SNSに「買ってきた」と投稿し、他のファンと共有する。その一連の行動が、ブランドの認知を自然に広げていきます。ノベルティそのものの製造コストは高くありませんが、ファンの購買動機と拡散行動を設計する「装置」としては極めて高い投資対効果を持っています。
これらの設計を見ると、一つの共通点が浮かびます。施策のどこにも「靴のフィット感」や「履き心地の良さ」を伝える要素がありません。代わりに設計されているのは、「バーチャル文化とリアルな商品が交差する体験」です。
しかし、ここで根本的な疑問が残ります。靴の機能を語らないプロモーションが、なぜ成り立つのでしょうか。学術研究が、その構造を説明しています。

インフルエンサーマーケティングの世界では、高い効果を出すのはインフルエンサーが持つ「本物っぽさ」と「ファンとの距離の近さ」だとされています。消費者は、インフルエンサーの実体験に共感して商品を買います。
しかし、バーチャルインフルエンサー(コンピューターで作られたキャラクターのインフルエンサー)は、人間のような深い親密さを築くことに限界があります。2025年のインフルエンサーマーケティング研究では、CGの存在が人間らしさを完全に再現できない場合に「不気味の谷」と呼ばれる違和感が生じ、消費者の信頼を損なうと指摘されています。
バーチャルタレントが「この靴は柔らかくて足が痛くならない」と言っても、消費者はそれが台本だと見抜きます。だからこそダイアナは、キズナアイに靴の機能を一切語らせませんでした。
ここまでは「VTuberは実体商品に不向き」という通説の根拠そのものです。ところが、研究は逆の事実も明らかにしています。
参考:The Effectiveness of Influencer Marketing in Promoting Products and Services on Instagram - IJFMR

2025年にイタリア・サピエンツァ大学等の研究チームが発表した研究は、直感に反する知見を示しています。
バーチャルインフルエンサーには、個人的な偏りがありません。人間のインフルエンサーにつきまとう「ステマ(広告であることを隠した宣伝)ではないか」という疑惑も、私生活のトラブルが飛び火するリスクもありません。
消費者はバーチャルインフルエンサーの発言を「ブランドが伝えたいメッセージをそのまま表現したもの」として受け取ります。その結果、情報源としての信頼性が人間のインフルエンサーよりも高く評価されるケースがあると報告されています。
人間のインフルエンサーの価値は「個人の体験に基づく共感」です。
一方、バーチャルインフルエンサーの価値は「ブランドメッセージの純度の高さ」にあります。「この人が本当にそう思っているのか」という疑問がそもそも発生しない。最初からブランドの代弁者であることが前提だからです。
「キズナアイというバーチャル文化のアイコンと手を組む」という行為そのものが、ダイアナのメッセージになっています。
参考:Do virtual influencers really influence consumers' purchase intentions? - Marketing Trends Congress

もう一つのエンジンがあります。推し活経済です。
2025年1月の財務省広報誌によれば、推し活を含むオタク関連分野の市場規模は約1兆90億円に達しています。物価が上がる中でも54%の消費者が推し活への支出を減らさないと回答しています。
推し活の本質は、商品の機能とは無関係な消費行動です。推しが起用された商品をジャンルを問わず買う「コラボ消費」が確認されており、動機の上位は「推しの活動を支援したい(40.3%)」「推しに喜んでほしい(50.2%)」。買う理由は商品ではなく、推しへの応援にあります。
15歳から29歳の男性では、推しの対象ジャンルの第1位がYouTuber/VTuberで17%。推し活の参加率は20代女性で45%です。この構造が、ダイアナのノベルティ設計を成立させています。
具体的に金額を見てみましょう。
税込10,000円以上でアクリルスタンド、20,000円以上ならクリアファイルも追加。コラボ対象のスニーカーが19,800円ですから、スニーカー1足を買えば両方もらえる計算です。
ファンにとって19,800円は「靴代」ではなく「推しの活動を応援する費用+その証拠が手に入る費用」です。靴の歩きやすさは、購買の判断にほとんど関わりません。
ただし条件があります。この構造が機能するのは、VTuberファン層とブランドの訴求先にある程度の重なりがある場合だけです。
ダイアナの顧客層が40代以上の女性であることを考えると、今回のコラボは「今の顧客の活性化」ではなく「新しい層の開拓」が目的だと考えるべきでしょう。
参考:推し活 ~若年層を中心に急成長する消費形態~ - 財務省広報誌

ここまでの分析を整理すると、VTuberコラボが機能するかどうかは、4つの条件で判断できます。
1つ目は、届けたい相手です。獲得したい顧客にZ世代からミレニアル世代(おおむね15歳から44歳)が含まれていますか。含まれていなければ効果は限られます。
2つ目は、商品の性質です。商品から機能的スペックを全部取り除いたとき、デザイン、ブランドの物語、世界観のどれかが残りますか。残るなら、バーチャルタレントはその価値を代弁できます。残らないなら、語らせるメッセージがありません。
3つ目は、目的です。主目的が短期の売上アップではなく、ブランドの認知拡大やイメージ刷新にありますか。VTuber起用の効果は、ブランドの文化的な立ち位置を動かすところに現れます。
4つ目は、環境です。サブカルチャーと相性のよい展開場所を用意できますか。ダイアナの場合、コラボ対象には常設のパルコやルミネの店舗が含まれ、百貨店は外されていました。
逆に、アピール内容が物理的な機能に偏りすぎている場合、ターゲットがバーチャル文化に馴染みのない層だけの場合、VTuber文化をリスペクトせず集客の道具として扱う場合は、コラボはうまくいきません。それは「VTuberが不向き」なのではなく、設計の組み合わせが間違っているだけです。
ダイアナ×キズナアイの事例が興味深いのは、この4つの条件すべてに対して意図的に設計を合わせている点です。
キズナアイという「象徴」の選定、パルコという「場所」の選定、VRChat用3Dモデルという「体験」の設計、ノベルティという「動機」の設計。どれか一つでも欠けていれば、施策の整合性は崩れていたでしょう。
「バーチャルの存在がこの商品を売れるか」と問い続ける限り、答えはいつもノーに近くなります。触れられない存在に、触れる商品の良さは伝えられません。
しかし、「この商品から機能を取り除いた後に残る物語を、バーチャルの存在が代弁できるか」と問い直すと、景色はまったく変わります。
もし自社の商品に、機能を取り除いた後にも語れる物語があるなら。ブランドを今とは違う文化圏に接続したいと考えているなら。ダイアナが踏み出した一歩は、参考にする価値があります。
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