NOKID編集部
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企業キャラクターは、設定を足すほど寿命が縮む。
こう言うと、多くのブランド担当者は首をかしげるでしょう。詳しいプロフィール、固定された決めゼリフ、作り込んだバックストーリー。設定が具体的なほどキャラクターは際立つ。それがIP開発の常識だからです。
しかし、データが不思議な事実を示しています。
日本リサーチセンター(NRC)が2014年から毎年実施している全国キャラクター調査によると、2025年7月の最新調査でキユーピーの認知率は87%。企業キャラクター14種の中でペコちゃん・ポコちゃん(89%)に次ぐ2位であり、好感率も15〜18%と上位です。一方、認知率がほぼ同水準でも、好感率の上位グループに入っていないキャラクターもいます。
つまり、知られていることと好かれていることは、まったく別の仕組みで決まるのです。
キユーピーに派手なCMはありません。SNSでバズった形跡もない。アニメ化も、決めゼリフも、性格設定すらない。なのに、100年近く好かれ続けている。
調べていくと見えてきたのは、商品・企業・キャラクターが脳の中で一つに溶け合う認知のしくみでした。
今回はキユーピーという一つのケースをとことん調べ上げ、好かれる構造を明らかにしていきます。これからIPを作る方も、すでにあるキャラクターを立て直したい方も、そのヒントはこの構造の中にあります。

キユーピーのキャラクターの歴史は1909年にさかのぼります。アメリカのイラストレーターローズ・オニールが雑誌「レディース・ホーム・ジャーナル」でキューピーのイラストを発表。その後ドイツで磁器人形として立体化され、世界的な人気キャラクターになりました。
日本との接点は1925年。キユーピー株式会社の創始者・中島董一郎がマヨネーズを発売した際、当時すでに人気だったキューピーをブランド名に採用しました。
ここが決定的です。キユーピーのキャラクターは、最初から商品名であり社名でした。マヨネーズのパッケージに刷られ、社名を冠し、企業のアイデンティティとして約100年動いてきたのです。
参考:ローズオニール物語 第10話 キューピーの誕生 - 日本キューピークラブ
ある保険会社が親しみやすさを狙って動物のマスコットを作ったとします。消費者はそのキャラクターをかわいいとは思っても、保険の中身や会社の信頼とは切り離して覚えます。キャラクターと商品が、頭の中で別々の引き出しに入っている状態です。
キユーピーはまったく違います。

キユーピーと聞くと、マヨネーズの味、赤い網目のパッケージ、食卓の風景が同時に浮かぶ。味覚・企業への安心感・キャラクターのかわいらしさが、ひとかたまりの記憶として結びついています。
なぜか。スーパーの棚で手に取り、冷蔵庫から出し、食卓でサラダにかける。そのたびに商品・企業・キャラクターに同時に触れ、3つの記憶がたがいに強め合う。このくり返しが毎日のように積み重なるからです。
これが"かわいいから"好きではなく"信頼できるから"好きへと好意が深まる土台です。
しかし、この記憶の一体化だけでは、キユーピーが他の食品キャラクターを引き離している理由を説明しきれません。その鍵を握るのは、キャラクターと消費者が出会う「場所」でした。
ローズ・オニールのキューピー原著作物は、日本での著作権保護期間が戦時加算を含めて満了し、パブリックドメイン(誰でも自由に使える状態)になっています。一方、キユーピー株式会社が使う立体造形やイラストは、裁判所で原著作物の複製にも二次的著作物にも当たらないと認定され、企業独自の知的財産として保護されています。
みんなが知っているキューピーと、キユーピー株式会社だけのキューピーが同時に存在する。この構造が、社会的な親しみと企業ブランドの独自性を両立させています。
ただしこれは歴史的偶然の産物であり、他社が再現できるものではありません。ここからは再現可能な設計原則に焦点を当てます。
参考:キューピー著作権事件控訴審判決 - 東京高裁平成13年5月30日

キユーピーのキャラクターが消費者と出会う場所を順に追ってみましょう。
最初はスーパーの調味料売場。赤い網目のデザインが「いつもの安心感」をすばやく伝えます。レジを通った商品は自宅に持ち帰られ、冷蔵庫に入った瞬間に「お店の商品」から「うちのマヨネーズ」へと意味が変わります。
冷蔵庫のドアポケットは、家族以外の誰も見ない個人的な空間です。そこにキユーピーのキャラクターは何か月も、ときには年単位で居つづける。
心理学には「単純接触効果」という考え方があります。あるものにくり返し触れるだけで、人はそれを好きになりやすいというものです。冷蔵庫を開けるたび、サラダにマヨネーズをかけるたび、消費者は無意識にキユーピーと目を合わせている。1日に数回、年単位で。
この超長期かつプライベートな接触が、テレビCMの15秒やSNSのスクロールではかなわない、家族の一部のような好意と信頼を育てています。
参考:第6回NRC全国キャラクター調査 - 日本リサーチセンター
参考:Zajonc, R. B. (1968). Attitudinal effects of mere exposure. Journal of Personality and Social Psychology, 9(2, Pt. 2), 1–27. https://doi.org/10.1037/h0025848
生活への定着が好意を生むなら、洗剤やトイレットペーパーのキャラクターも同じように愛されるはずでは?
もっともな疑問です。しかし、これらのキャラクターが熱心に好かれることはめったにありません。
理由は、商品が届ける感情の方向の違いにあります。洗剤は「マイナスをゼロに戻す」商品。不快を取り除く価値です。マヨネーズは「ゼロからプラスを生む」商品。おいしさを加える価値です。
接触頻度が同じでも、接触時の気持ちの質が違う。不快の除去に立ち会うキャラクターと、おいしさの創出に立ち会うキャラクターでは、積み重なる好意の量に大きな差が出ます。
キャラクターを導入すれば自動的に好かれるわけではない。自社の商品がどんな感情体験を届けているかによって、IPが積み上げられる好意は構造的に決まるのです。

多くの企業にとって、パッケージは商品の容器です。しかしキユーピーの構造を見ると、パッケージは消費者の生活空間に置かれた「消えない看板広告」として働いています。
注目すべきは、キユーピーが長年にわたって基本デザインを変えていないこと。赤い網目、透明なボトル、中央のキャラクター。この3要素が一貫して守られてきました。
「変えなかった」のではなく「変えないことを選びつづけた」のです。中身のレシピは更新しながら、看板としての外見だけを保つ。この判断がパッケージの記憶定着効果を最大にしています。
出稿をやめれば消えるネット広告と違い、パッケージに組み込まれたIPは商品が手元にある限り接触しつづけます。しかも広告費は実質ゼロ。このストック型の接触構造が、長期的な好感度の物理的な土台です。
ここまで、キユーピーが好かれる「場所」の構造を見てきました。しかしパッケージの力だけなら他の食品メーカーにも同じチャンスがあるはずです。キユーピーをさらに特別にしているのは、キャラクターの設計思想にあります。

キユーピーの造形を見てみましょう。大きな頭、丸い体、大きな目、ぽっこりしたおなか。三頭身で衣装なし、年齢も性別もわからない。特定の属性に結びつかない、純粋さだけの造形です。
動物行動学者ローレンツが提唱した「ベビースキーマ」によれば、赤ちゃんのような見た目は「守ってあげたい」という気持ちを呼び起こし、攻撃性をやわらげます。
エンタメの世界では、これは単に「かわいい」として消費されます。しかし食品メーカーのアイデンティティとして使うと、意味が変わる。
食品で消費者がもっとも恐れるのは、腐敗・異物混入・有害成分です。キユーピーの赤ちゃん的な造形は、この警戒心を根っこから解除するシグナルとして働いています。消費者は無意識に「添加物がなさそう」「清潔に作られていそう」と感じる。見た目そのものが、もっとも直感的な品質の保証書になっているのです。
「かわいいから好き」ではなく「無害だと本能で感じるから安心して手に取れる」。これがベビースキーマの食品における真の機能です。
参考:Lorenz, K. (1943). Die angeborenen Formen möglicher Erfahrung. Zeitschrift für Tierpsychologie, 5(2), 235–409. https://doi.org/10.1111/j.1439-0310.1943.tb00655.x
キユーピーには性格がありません。口ぐせも趣味もバックストーリーもない。ふつうなら弱みに見えます。
ところが、この空白こそが最大の強みです。
強い個性やセリフを持つキャラクターは、特定の時代・文化・世代に紐づきます。流行語を話すキャラクターは、その流行語がすたれた瞬間に古くなる。
キユーピーはまったく語りません。だから消費者は自分の記憶を自由に重ねられる。タワマンの食卓でも下町のちゃぶ台でも、キユーピーはその風景のじゃまをしない。子育て中の人は「お弁当の味方」、一人暮らしの人は「自炊の相棒」、年配の人は「実家にあったもの」と感じる。同じキャラクターに、一人ひとりが違う物語を紡いでいるのです。
キユーピーのSNS運用にも同じ思想が貫かれています。多くの企業キャラクターがSNSで時事ネタにからみ、掛け合いで話題を取りにいく中、キユーピーはそうした運用を選んでいません。語らないものは失言しない。バズを狙わないものは炎上もしない。短期のインプレッションでは見劣りしても、数十年のブランド蓄積では圧倒的に有利です。
設定を足すほどIPの寿命が縮む。詳しいプロフィールも決めゼリフも、長い目で見れば特定の時代に紐づく錨(いかり)になる。IPを語り手ではなく見守り役にする。この引き算の設計が、100年の耐久性を生んでいます。
NRC全国キャラクター調査で好感度上位に並ぶのは、トトロ、ドラえもん、ミッキーといった大型アニメ・映画IPです。物語の力で短時間に深く心に刻まれるIPです。
キユーピーはこの対極にいます。物語を持たないからこそ日常に定着できる。トトロのように与えられる物語ではなく、消費者が自ら紡ぐ記憶──実家のキッチン、子どものお弁当、初めての自炊──を受け止める器として働いているのです。
アニメIPが感動を届けるメディアなら、キユーピーは日常を見守る家具です。
ただし無言性は0か100の二択ではありません。核となる造形は固定しつつ、接点ごとに語る量を調整する設計も可能です。キユーピーの教訓は「語るな」ではなく「語る量を最小にし、消費者が記憶を重ねる余白を守れ」ということです。
参考:第7回NRC全国キャラクター調査Part1 - 日本リサーチセンター

「キユーピーは特殊すぎて参考にならない」という反論があるかもしれません。真似ると失敗する要素をはっきりさせておきます。
1つ目は権利構造の特殊性です。
キューピーは著作権が切れているので誰でもデザインを使えますが、キユーピー株式会社は商標権と独自の造形で自社のキューピーを守れる。この「誰でも使えるのに、企業のブランドも守れる」という状態は、100年の歴史の中でたまたまそうなったものであり、新しくIPを作るときに狙って再現できるものではありません。
2つ目は、マヨネーズという商品カテゴリの特殊性です。
日本の食卓に深く根づいた調味料で、しかもキユーピーが圧倒的なシェアを持っている。この土台があるからこそパッケージ接触の量が成り立つのであって、新しい商品が同じ条件をすぐに作ることはできません。
3つ目は、パッケージデザインを変えないことの表面的なマネです。キユーピーは100年変えなかったからこそ「伝統」として受け入れられています。歴史の浅いブランドが同じことをしても、「手抜き」や「時代遅れ」と見なされるリスクがあります。
歴史や規模に関係なく使える原則があります。もっとも重要なのは、キャラクターのイメージと企業の行動を一致させる「言行一致」です。
キユーピー株式会社はオープンキッチン(工場見学)を1961年から続け、マヨネーズ教室やSDGs教室を全国展開しています。Hoitto!ヘルスケアビジネスの報道によれば、2023年度の見学者は合計44,356人。
キャラクターの造形が伝える無邪気さと、企業が実際に行っている品質管理・社会貢献がかみ合っている。この一致が、個人的な好感を社会的な信頼に引き上げています。逆にこれが崩れれば、IPは不信感の増幅装置に転落します。
自社管理IPにはタレント起用やライセンス契約にない強みもあります。不祥事リスクゼロ、ライセンス切れリスクゼロ。数十年の継続投資が可能になり、積み上がったブランド価値が参入障壁になるのです。
参考:食育活動 - キユーピー
参考:キユーピー 2023年度の食育活動 - Hoitto!ヘルスケアビジネス

キユーピーから取り出した原則は、商材によって使い方が変わります。
物理パッケージ定着型(食品・日用品)。キユーピーにもっとも近い構造です。パッケージの基本デザイン(色・形・キャラクターの配置)を長期間変えないと決めることがポイントです。
世界観がブランド価値の中心にある場合、マスコットを足すと空気感がうすまります。パッケージ造形・タイポグラフィ・空間デザインに一貫した視覚言語を通すことが、キユーピー的統合の実現方法です。
画面上で毎日ユーザーと接するプロダクトは、冷蔵庫のドアポケットに相当するデジタル接触を再現できます。アプリアイコン、ローディング画面、通知アバターにIPを住まわせましょう。
フルスペックのキャラクターは不要です。シンプルなアイコンをパッケージ・LP・同梱物・メルマガに統一して使いつづけるだけで、単純接触効果による親しみの下地は作れます。
共通するのは、IPを独立コンテンツとして切り出すのではなく、商品やサービスそのものに統合する発想です。キャラクターの住みかが商品の中にあるかぎり、接触は途絶えず好意は積み重なります。
キユーピーの好感度を支える構造は4つ。記憶の一体化、パッケージの継続メディア化、ベビースキーマの品質保証転換、無言性が生む余白です。
企業IPが信頼を失うパターンは3つ。商品とキャラクターが切り離される「分離」、設定の足しすぎで古びる「過剰」、企業行動との「矛盾」。
再現可能な設計原則も3つ。パッケージをメディアとして再定義する。キャラクターに語らせすぎない。企業の行動とIPのイメージを一致させる。歴史や規模に依存しない、今日から実行できる原則です。
もし自社にキャラクター導入を考えているなら、まずは自分の商品が毎日どんな場面で消費者と出会っているかを観察するところから始めてみてください。その接点の中に、キャラクターの住みかが見つかるはずです。
売れるキャラクターを作ろうとするのではなく、信頼される関係性を設計する。キユーピーの分析が示しているのは、このシンプルだけれど見落とされがちな本質なのです。
株式会社NOKID(ノーキッド)はショートアニメ/アニメーションCMの企画・制作・SNSアカウント運用・プロモーションを得意とする東京の企画・制作会社です。キャラクターIPの開発・企画立案・制作からプロモーション企画立案・実施まで話題性を意識したサービス提供が可能です。

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NOKID編集部
1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。