2026.01.02

2026.01.23

くまモンは「ただの地方キャラ」ではない!1兆円経済圏を生んだ仕組みの正体

「くまモンみたいな成功は、運が良かっただけではないか?」

地方自治体の現場では、しばしばこのような諦めの声が聞かれますが、その認識は表面的な部分しか見ていないと言わざるを得ません。

くまモンの本質は、愛らしい見た目にあるのではなく、その裏側で動いている緻密な計算と仕組みにあります。

実際に分析を進めると、くまモンとは熊本県が作り上げた地域経済を動かすためのエンジンのようであると分かります。予算や人脈は、あくまで最初の材料に過ぎません。

本当に重要なのは、失敗を直しながら改良を続け、誰でも使えるように門戸を開放した考え方です。

初期の2年間は失敗の連続でしたが、それを乗り越えた結果、累計1兆6,000億円を超える巨大な経済効果を生むまでに成長しました。

そこで今回は、くまモンを経済エンジンとして捉え直し、なぜこのキャラクターの活用事例が15年以上も走り続けているのか、その設計図を解読します。

ロゴの「おまけ」から始まった“くまモン”の大逆転

ロゴの「おまけ」から始まった“くまモン”の大逆転

熊本県の危機から生き残りをかけた起死回生の策

くまモンは、最初から「みんなの人気者」を目指して作られたのではありません。きっかけは、熊本県が経済的な危機を回避するための、「緊急の生き残り策」として生まれました。

2011年の九州新幹線全線開業時、終着駅である福岡や鹿児島に観光客やお金を吸い取られ、熊本は単なる通過点になってしまうという強い焦りがありました。この問題を解決するためには、普通のPR活動ではなく、通過する人々を強制的に振り向かせる強力な「フックとなる何か」が必要不可欠だったのです。

具体的には、熊本県は当初キャンペーンの「ロゴマーク」のデザインだけを依頼していました。ですが、デザインを担当した水野学氏は「動かないロゴマークだけでは、人々の注意を引くには弱い」と判断し、動いて活動できる「キャラクター」も提案しました。

当時の蒲島郁夫知事も、この提案が従来の常識外れなものであっても、リスクを取って採用するという決断を下しました。

放送作家の小山薫堂氏らが関わったこのプロジェクトにおいて、くまモンはあくまでロゴの「おまけ」として、わずかな予算(約2000万円程度)で始まりました。しかし、それは結果として従来の行政PRの限界を突破するための重要な武器だったと言えます。

つまり、くまモンとは新幹線開業による「熊本素通り」というピンチをチャンスに変えるために用意された、戦略的な切り札だったのです。

参考:「くまモン」はなぜ成功したのか - nippon.com

参考:くまモン、誕生から15周年「120点だモン!」◇フォロワー80万、「熊本県営業部長兼しあわせ部長」にインタビュー - JIJI.com

IP誕生から2年間は鳴かず飛ばずの下積み時代

くまモンの初期は人気が出ず、ゲリラ営業による下積みを続けてきた

デビュー直後のくまモンは、すぐに人気が出たわけではありません。むしろ初期の2年間は、誰にも知られず、失敗を繰り返す「下積み」の時期でした。

新人タレントがいきなり売れないのと同様に、無名のキャラクターがいきなり人気を得ることはありません。知名度を上げるためには、地道なドブ板営業を積み重ね、ファンを一人ひとり増やしていく必要がありました。

当時の担当者は、夏場の暑い中で保育園を回っても子供たちに泣かれたり、誰もいない場所で体操を踊ったりといった、徒労に終わるような活動を繰り返していました。ですが、そこで諦めずに関西圏でのゲリラ活動へと作戦を変更したのです。

知事が緊急記者会見を開いて「くまモンが大阪で失踪した」と演出し、Twitter(現X)での目撃情報を募るという、当時としては斬新なSNSを使った仕掛けを行いました。

2010年、知事はくまモンに「名刺を1万枚配る」という仕事を与え、大阪の街中に派遣しました。この一見無謀な活動が、SNSを通じて面白がられ、拡散されることで話題を生み出しました。

つまり、初期の成功は偶然ではなく、不人気を恐れずに現場での活動を繰り返し、SNSという新しい道具をうまく使うことで知名度を獲得した、執念の努力の結果なのです。

参考:世界で愛されるキャラクター「くまモン」の知られざる真実 - ジモコロ

2011年ゆるキャラグランプリ優勝から本格稼働

2011年のゆるキャラグランプリ優勝は、くまモンというプロジェクトのゴールではありません。優勝はあくまで全国デビューのきっかけに過ぎず、本当の目的はそこから始まる「本格的な仕事」にありました。

多くの自治体キャラクターは、グランプリ優勝をピークとして活動を縮小させてしまいますが、熊本県は即座に獲得した知名度を活用して実務の開始へと切り替えました。キャラクターに明確な「仕事」を与えることで、一過性のブームで終わらせないようにしたのです。

例えば、優勝直前の2011年9月、県はくまモンを「営業部長」という、知事・副知事に次ぐ地位に昇進させました。これにより、くまモンは正式な権限を持つ「公務員」としての役割を与えられました。現在では年間3,000回ものイベント出動という膨大な仕事をこなし続けています。

また、同時期にエースコックとのコラボ商品が発売されるなど、ビジネス面での連携も始まりました。これによって、行政のマスコットという枠を超え、企業の活動にも使える便利な存在へと進化しました。

つまり、ゆるキャラグランプリ優勝は目的ではなく、くまモンという存在を全国の人々に知ってもらうための、最初にして最大の宣伝イベントとして利用されたに過ぎないのです。

参考:「くまモン」関連売り上げは累計約1.5兆円 15周年迎えても人気が続くワケ - 日経クロストレンド

くまモンの「権利を捨てて実利を取る」常識破りの無料戦略とは

くまモンの「権利を捨てて実利を取る」常識破りの無料戦略とは

一般的な自治体キャラの失敗パターンは?

多くの自治体キャラクターが失敗するのは、行政が著作権という権利を「囲い込み」しようとするからです。彼らはキャラクターを守ろうとしすぎるあまり、結果的にそのキャラクターの寿命を縮めてしまっています。

手続きが複雑で、許可が下りるまでに時間とお金がかかるキャラクターは、企業から敬遠されます。行政特有の前例踏襲やリスク回避でガチガチに管理されたキャラクターは、使い勝手が悪く時代の変化に対応できないため、すぐに飽きられてしまうのです。

ある自治体では、キャラクター商品の申請をしてから許可が降りるまでに2ヶ月以上を要し、その間にチャンスを逃した企業が二度と申請しなくなったという事例もあります。

行政の所有物として厳しく管理すればするほど、民間企業の参加は難しくなり、新しいアイデアは生まれません。結果として、誰も使わない、誰も知らない資産となってしまうのです。

つまり、過剰な権利保護と管理主義は、キャラクターの広がりを止める「壁」になってしまい、普及の可能性を自ら閉ざしているのです。

くまモンの「損して得取れ」の無料モデル

くまモンの「損して得取れ」の無料モデル

くまモンの戦略は、ビジネスで言うところの「損して得取れ」の実践です。熊本県は、著作権利用料という目先の小銭を捨てて、知名度という莫大な資産を取りに行く選択をしました。

県はくまモンの著作権を買い取った上で、国内での利用料を「原則無料」に設定しました。

ただし、そこには「熊本県のPRになること(県産品の使用など)」という巧みな条件が組み込まれています。これにより、企業はお金を払う代わりに、熊本県の宣伝マンとして働くことになります。

小山薫堂氏は「企業の商品をメディアだと考えた」と語っています。企業が自費でくまモンパッケージの商品を作り、全国のスーパーに並べてくれることは、県がお金を払ってCMを流す以上の宣伝効果を持ちます。企業側も「無料なら使おう」となり、さらに「くまモンを使うために熊本県産のトマトを使おう」といった行動の変化までも引き起こしました。

2010年12月の著作権買取と、それに続く無料化の決断は、行政としては異例のスピードで実行されました。この発想は、無料でサービスを提供して利用者を集め、別の部分で利益を上げるビジネスモデルと同じです。

つまり、くまモンは「利用料」をもらうことを諦めることで、全国の企業を「協力者」として巻き込み、熊本県産品の販売拡大という間接的ながら巨大な利益を生み出す仕組みを作ったのです。

参考:小山薫堂が考えるくまモンの販促力「従来のキャラクターよりAKB48に近い存在」 - 販促会議

国内は開放、海外は厳格にしたルール構造

くまモンの戦略のすごいところは、国内向けと海外向けで異なるルールを適用する「二刀流」にあります。これは、普及と収益化を同時に進める、非常に賢いやり方です。

国内では「広めること」を最優先して無料にする一方、偽物が出るリスクが高く管理が難しい海外市場では、プロの管理会社を入れて有料で厳しく管理しています。

国内と海外のルールを使い分けたことにより、国内での圧倒的な知名度と、海外でのブランド維持を両立させています。

具体的には、国内では中小企業でも手軽に使える一方、海外ではバカラやシュタイフといった高級ブランドとのコラボレーションを戦略的に行っています。

日本銀行熊本支店の試算では、2011年からの2年間だけで1,244億円の経済効果があったとされていますが、これは国内の無料戦略が成功した結果です。一方で、海外ではADKエモーションズなどが管理し、無断使用を防ぎつつ収益化を図っています。

つまり、くまモンは「完全な自由」と「厳格な管理」という矛盾する二つの要素を、場所に合わせて切り替えるスイッチを持っており、それが1兆円ブランドを支える丈夫な土台となっているのです。

参考:「くまモン」本格展開、日タイ2社が契約 - NNA ASIA

くまモンの経済規模は1兆6,000億円の実力

くまモンの経済規模は1兆6,000億円の実力

2024年には1,627億円という経済効果

くまモンの経済効果として発表される「1兆6,222億円」という数字は、キャラクターグッズの売上だけではありません。くまモンに関連して動いた「熊本県産品やサービスの総額」と捉えるべきです。

通常のキャラクタービジネスは、ぬいぐるみや文具などの「グッズ売上」がメインになります。しかし、くまモンの最新データ(2024年実績)を見ると、売上の8割以上を「食品」が占めています。

そのため、くまモンがキャラクターとして消費されているというよりも、食品の品質や産地を証明する「安心マーク」のように機能している状態であり、ブランドを強化する意味でのキャラクターなのです。

2024年の実績では、グッズ等の売上が前年より減ったにもかかわらず食品の売上は増え、全体として1,627億円という高い数字を維持しました。ブームが去ってグッズが売れなくなっても、日常生活に密着した食品という土台部分でくまモンが価値を発揮していることを示しています。

2011年の調査開始からの累計売上高は1兆6,222億円に達しました。特に農産物の出荷量増加などが食品売上の増加につながっており、くまモンは消費されるエンタメIPから、産業を支える柱へと役割を変えています。

つまり、くまモン経済の実体は、一時的なファングッズ市場ではなく、熊本県の農業や食品産業と深く結びついた、盤石な経済圏なのです。

数字で効果を見える化して運用を続けている

数字で効果を見える化して運用を続けている

「地域ブランドの効果は数字で測れない」というのは、測ろうとしない者の言い訳に過ぎません。熊本県は、くまモンという仕組みの効果を、複数の指標を使って常に見える化しています。

健康診断のように、県は「関連商品の売上」「広告効果」「知名度」といった数字のデータを毎年集めて分析することで、客観的なデータに基づいて次の作戦を決めることができます。

日本銀行熊本支店が算出した「広告効果90億円」や、県が毎年発表する「商品売上高」は、議会や県民に対する説明責任を果たすための重要なデータです。さらに、SNSのフォロワー数なども含め、多角的に「くまモンがどれだけ働いているか」を示しています。

曖昧な「人気」ではなく、明確な「数字」で成果を示すことによって、プロジェクトへの予算投下の正当性を証明しています。これは、行政プロジェクトにおいて最も難しい「継続」を勝ち取るための防御策でもあります。

つまり、くまモンの成功の裏には、効果測定を諦めず、目に見えない価値を何とかして数値化しようとする、地道なデータ管理が存在するのです。

参考:~2011年の調査開始以来、過去2番目の売上高を記録~「2024年くまモン利用商品」年間売上高1,627億円 - PRTIMES

地元への愛着作りという見えない資産作り

くまモンにとって重要な顧客は、外部の観光客よりも「地元の人(熊本県民)」です。県民の誇りこそが、この仕組みを動かすためのエネルギーだからです。

どんなに優れた仕組みも、地元の人が使わなければ広まりません。小山薫堂氏が当初から目指したのは、外部へのアピールよりも先に、県民自身が「熊本っていいところだよね」と再認識することでした。

県民がくまモンを愛し、自発的にグッズを持ち歩きSNSで発信することで、熊本県全体が巨大な「くまモン応援団」となりました。心理学などの学術観点でも、こうした手法は帰属意識を高める上で有効だと言われています。

「熊本に生まれてよかった」という気持ちの向上は、数字には表れにくいですが、活動を長く続けるための土台です。住民の熱量が低いまま外部にPRしても、それは「中身のない箱」に過ぎず、すぐにメッキが剥がれてしまいます。

つまり、くまモン戦略の本質は、県民一人ひとりを「宣伝マン」にし、内側から湧き出る熱量を力に変えて外部へ広げていく、住民参加型のブランド作りなのです。

参考:「完璧求めず余裕を」 くまモン生みの親・小山薫堂氏のヒットの極意 - 日本経済新聞

くまモンが災害時に見せた心の支えとしての役割

くまモンが災害時に見せた心の支えとしての役割は?

2016年4月に活動停止の危機が訪れた

2016年の熊本地震は、熊本県という物理的な場所を壊しましたが、それと同時に「くまモン」という精神的な存在の真価が試されるテストでもありました。

地震により、熊本城や阿蘇神社といった目に見える宝物が傷つきました。その際に蒲島知事は「熊本城と阿蘇は傷ついたが、くまモンは元気です」という言葉を述べました。

物理的な拠り所が壊れた状況下で、くまモンが唯一残された「希望の象徴」であることを宣言したのです。

震災直後、県庁職員も被災者となり、くまモンの活動は一時的に止まりました。くまモンがいないという事実は、かえって人々の寂しさを募らせ、全国から復活を求める声が殺到したように、くまモンが人々の心の支えとしても機能していたのです。

建物の復興には時間がかかりますが、キャラクターによる心の復興はすぐに始められます。くまモンは、壊れた風景の中で変わらぬ姿を見せることで、人々に「日常」の感覚を取り戻させる役割を果たしました。

つまり、くまモンは普段の「広告塔」としての役割だけでなく、いざという時には地域の人々の心を支える「精神安定剤」としての側面を持っていたのです。

参考:くまモン登用以上の功績も! 熊本県知事が県民から信頼される理由 - 週刊女性PRIME

役割の拡大=避難所での触れ合いに成功した

震災後のくまモンの活動は、単なる慰問ではありません。それは、傷ついたコミュニティを再びつなぎ合わせる「絆の修復作業」でした。

5月5日のこどもの日に活動を再開したくまモンは、避難所という辛い場所に現れ、子供の笑顔と大人の涙を引き出しました。これは、被災によってバラバラになった人々の心を、くまモンという共通の話題を通じて再びつなぐ行為でした。

県はその後「がんばるけん!くまもとけん!」という合言葉と共に、くまモンを復興のリーダーとして位置づけました。これにより、くまモンは観光客を呼ぶ役割から、住民を励ます役割へと、状況に合わせて仕事の内容を変えました。

被災地での活動は、経済効果などの数字では測れない社会的な価値を生み出すことになります。エンターテインメントが、極限状態におけるケアとして役立つことを証明したのです。

つまり、くまモンは柔軟な対応により、災害という予想外の事態に対しても活動を止めることなく、地域の回復力を高める接着剤としての役割を果たしたのです。

FORKUMAMOTOPROJECTで支援の循環を作った

出典:Yahoo!ネット募金FORKUMAMOTOPROJECT

復興支援において、くまモンは支援金を必要な場所に届けるための信頼できる窓口としての役割も果たしました。

「FORKUMAMOTOPROJECT」は、くまモンへの信頼を活用して外部からの支援金を集め、それを被災した子供たちの教育や心のケアという未来への投資に回す仕組みです。

ただお金を配るのではなく、プロジェクトとして資金を循環させる流れとなっています。

ロクシタンのような世界的企業とのコラボレーションでは、商品の売上の一部が自動的に熊本の植樹活動などに寄付される仕組みが作られました。消費者は「支援したい」という気持ちを、くまモン商品を買うという買い物で表現できます。

このプロジェクトにより、一時的な寄付で終わらせず、ビジネス活動を通じた息の長い支援モデルが確立されました。くまモンがいることで、企業も消費者も復興支援に参加しやすくなるという、参加のしやすさが向上したのです。

つまり、くまモンは善意のお金を効率的に集め、それを地域の復興という形に変えるための、社会的な装置の一端をも担っていたと言えるでしょう。

参考:Yahoo!ネット募金FORKUMAMOTOPROJECT

参考:ロクシタン、くまモンのチャリティー製品収益を寄付熊本県山都町に1,100本の植樹を実施多様な生き物を守る森づくりを応援する「Present Tree in くまもと山都」に参画 - PR Times

キャラデザより設計図?くまモン成功の条件を再現するには?

キャラデザより設計図?くまモン成功の条件を再現するには見た目より仕組みを見る

ゆるキャラブームの終焉とくまモンの生存

数多くのゆるキャラが消えていった中で、なぜくまモンだけが15年も生き残っているのでしょう?それは、他のキャラが流行に乗っただけなのに対し、くまモンだけが常に新しい挑戦を続けてきたからです。

スマートフォンのアプリが更新しないと使えなくなるように、キャラクターも変化し続けなければ飽きられます。

くまモンは、知名度を上げる段階から、ブランド化する段階、復興支援の段階、そして現在のSDGsや万博サポーターといった世界的な段階へと、数年ごとに活動の軸足を移しています。

バカラやライカといった世界の一流ブランドとのコラボは、くまモンを地方のマスコットという枠から格上げするための意図的な作戦です。むやみに露出を増やすのではなく、「どのような場面で出るか」を厳密に選んでいます。

2025年大阪・関西万博のスペシャルサポーター就任も、この進化の延長線上にあります。過去の成功体験にしがみつかず、常に新しい環境に適応しようとする変化の力こそが、長生きの秘訣かもしれません。

つまり、くまモンが生き残ったのは時代や環境の変化に合わせて役割を書き換え続ける、柔軟な運営体制を維持してきたからに他なりません。

くまモンの成功から見えた5つの原則

あなたの地域や企業で「第2のくまモン」を作ることは不可能ですが、くまモンのような成功パターンを作ることは可能です。必要なのは、見た目を真似するよりも、成功を支える5つの原則を取り入れることです。

くまモンの成功は運や人の要素もありますが、仕組みの要素は他地域でも真似できます。以下の5つの原則を自地域の活動に取り入れることで、成功確率は飛躍的に高まります。

  1. 長期視点:1年で結果を求めず、少なくとも5年先を見て計画を立てる。
  2. 開放戦略:権利を独り占めせず、ルールを決めて民間に開放し、外部の力を借りる。
  3. 役割定義:キャラクターに具体的な役職と仕事を与え、働かせる。
  4. 効果測定:複数の目標数値を設定し、常に成果を数字で確認して改善する。
  5. 地元優先:外部へのPRよりも、まず内部(住民)の満足度を高めることに力を注ぐ。

これらは特別な才能が必要なことではなく、組織としての決断と仕組みづくりの問題です。多くの自治体が失敗するのは、この面倒な「設計」を飛ばして、安易な「お絵かき(デザイン作成)」から始めてしまうからです。

つまり、真似すべきは「見た目」ではなく「仕組み」であり、組織全体でリスクを取り、長い目で資産を育てるという覚悟こそが、重要な条件なのです。

地域や企業としての危機を物語に変える

最後に最も重要なことは、くまモンの真似をしないことです。くまモンは「熊本が通過される」という弱点を逆手にとって生まれました。

それぞれの地域や企業ごとに特有の「弱点」があり、それこそが武器にもなり得ます。

成功した事例の見た目だけを真似しても、中身が違えばうまくいきません。くまモン戦略の神髄は、熊本県の危機や弱さを認め、それを物語や企画に変えて共感を得てきた点にあります。

くまモンがダイエットに失敗して降格されたり、ほっぺを落として探したりといったエピソードは、完璧ではない人間らしさを出すための高度な演出です。欠点があるからこそ、人はそれを応援したくなるのです。

つまり、くまモンから学ぶべき究極の教訓とは、「他人の成功をなぞるな、自分の弱さを最大の武器として使え」という、挑戦する心そのものなのです。

参考:くまモン年表 - くまモンランド

地方・自治体キャラ「くまモン」の成功モデルについてのまとめ

ここまでのポイントをまとめます。

  • くまモンは2011年3月の九州新幹線全線開業をきっかけに生まれた熊本県PRキャラクターである
  • 最初はロゴ制作の依頼だったが、おまけで“キャラ”が提案され主役になった構造である
  • 誕生初期は泣かれる/空振りもある下積みを重ね、現場とSNS企画で認知を獲得した
  • 話題化=受賞は通過点で、営業部長という“役割”を持たせてブーム化→運用フェーズへ切り替えた
  • 自治体キャラがやりがちな“権利の囲い込み”ではなく、使うためのルールを整えた上で「利用料無料」にした
  • 無料でも無条件ではなく「熊本県のPR」「県産品の販路拡大」などを条件にして、企業の活動そのものを熊本の宣伝へ変える設計
  • 経済規模が“グッズ売上だけ”ではない点が重要で、2024年は年間売上高1,626億7,323万円、累計1兆6,222億円に達している
  • 非食品(グッズ等)の売上が減っても全体数値を維持しており、「日常の購買」に組み込まれた強さが見える
  • 災害時には熊本地震後に避難所訪問を再開し、復興の旗振り役として支えになった

くまモンは、運良く人気になったと感じるかもしれません。ですが、初期の下積みがあったことや、危機感→設計→運用→拡張の順で“地域経済のエンジン”として考えられた展開、チャレンジ精神などの条件が組み合わさったIPでした。

真似すべきは見た目の雰囲気ではなく、①目的を先に決める、②使いやすいルールを用意する、③役割と仕事を与える、④数字で効果を説明する、⑤非常時にも役立つ存在にするいう設計図の部分です。

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