NOKID編集部
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日本武道館でソロライブを開催。楽曲のストリーミング再生数が1億回を突破。世界三大広告賞の一つ、クリオ賞を受賞。自らの名前を冠した個人事務所も設立——。
この経歴だけを見れば、第一線で活躍するアーティストの履歴書です。
ただし、一つだけ違うことがあります。この人物には、生身の顔がありません。
星街すいせい。VTuberグループ「ホロライブプロダクション」に所属するバーチャルアーティストです。彼女の実績は、エンタメ業界の多くの人が抱いてきた「VTuber=YouTubeの配信者であり、芸能ビジネスとは別のもの」という思い込みを、根底から覆しています。
そしてこの変化は、星街すいせい一人の才能では説明できません。彼女が所属するカバー株式会社の決算データを読むと、VTuber産業そのものが「投げ銭で稼ぐ配信ビジネス」から「IP(キャラクターや名前の権利)で稼ぐ芸能ビジネス」へと、大きく形を変えたことがわかります。
それでも、この変化に正面から向き合っているエンタメ業界の関係者は、まだ多くありません。
本記事では、星街すいせいの実績データ、カバー社の決算推移、そして2023年を境に増えたVTuberのテレビ出演事例から、VTuberがなぜ「芸能人」と呼ぶべき存在に変わったのかを見ていきます。

いまやVTuberは、音楽チャート・ライブ興行・広告の実績で従来の芸能人と肩を並べています。星街すいせいのキャリアが、その変化を最もはっきり映し出しています。

2023年1月、星街すいせいはYouTubeの人気チャンネル「THE FIRST TAKE」にVTuberとして初めて出演しました。披露したのは代表曲「Stellar Stellar」の一発撮りです。同時視聴者数は約16万人に達し、同チャンネル史上最大の記録となりました。VTuberの歌の実力が、広く一般の視聴者に届いた歴史的な瞬間でした。
2024年3月にリリースした「ビビデバ」で、星街すいせいは音楽活動の新たな段階に入ります。同曲はBillboard JAPANのストリーミング累計再生回数で1億回を突破し、VTuberとして初の到達となりました。ミュージックビデオの再生回数も2024年11月にYouTubeで1億回を突破しています。
Billboard JAPANの総合ソング・チャート"Hot 100"では最高19位を記録。
2025年1月22日にリリースした3rdアルバム『新星目録』は、Billboard JAPANの週間ダウンロード・アルバム・チャートで初登場1位を獲得し、オリコン週間デジタルアルバムランキングでも初登場1位を記録しました。
ライブ活動の規模も拡大しています。2024年末から2025年にかけて全国3都市のツアーを実施し、その締めくくりとして2025年2月1日に日本武道館での単独ライブを成功させました。武道館は、日本の音楽アーティストにとって一つの到達点とされる会場です。
そして「ビビデバ」のミュージックビデオは、世界三大広告賞の一つであるクリオ賞(Clio Music 2025)のブロンズ賞を受賞しました。
クリオ賞は広告やエンターテインメント分野の優れた作品を表彰する国際的な賞です。選ばれた理由は「VTuberだから」ではありません。映像と音楽の品質が、世界基準で認められた結果です。
参考:星街すいせい「ビビデバ」MVが、世界三大広告賞Clioの音楽部門であるClio Musicのブロンズ賞を受賞! - ホロライブプロダクション
参考:星街すいせい「ビビデバ」VTuber初のストリーミング累計1億回再生突破 - Billboard JAPAN
参考:「THE FIRST TAKE」史上最大同時視聴数を達成したVTuber「星街すいせい」が同チャンネルに再登場! - カバー株式会社プレスリリース
VTuberは事務所に所属し、配信で視聴者から投げ銭を受け取る。事務所がマネジメントを担い、タレントは事務所のIPとして活動する——これが従来の常識でした。
星街すいせいは2026年3月、個人事務所「Studio STELLAR」を設立しました。タレントマネジメント業務は株式会社NERDに移管され、音楽活動・配信・グッズ販売・ファンクラブ運営といったソロ活動はStudio STELLARが主導します。
一方で、ホロライブプロダクションに所属するVTuberとしてのコラボやグループ活動は継続する予定です。
このモデルは、芸能界では珍しくありません。大手事務所に所属しながら個人法人でビジネスの主導権を握る——トップクラスのアーティストがキャリアの成熟期に採用する手法そのものです。VTuberがこの段階に到達したこと自体が、産業の成熟を物語っています。

注目してほしいのは、カバー社自身がこれを「活動の軸を移す」と明言している点です。カバー社の公式発表では、星街すいせいが目標と語る東京ドーム公演の実現、そしてさらなるメジャーシーンでの活躍を目指すにあたって、個人事務所の設立によるソロ活動に活動の軸を移す旨が記されています。所属事務所が公式に「ソロ活動に軸を移す」と言い切っているのです。
そして本人が目標に掲げているのは、東京ドーム公演。これは生身の芸能人やアーティストが掲げる目標そのものです。星街すいせいは、毎日の配信で視聴者と時間を共有するよりも、作品とライブで勝負する道を公式に選び取っています。これはもう、従来の「配信者」の枠には収まりません。アーティストとしての選択です。
星街すいせいの実績は、個人の才能の結果にも見えます。しかし、カバー社の決算データを読むと、これは一人の努力では起こりえない数字であることがわかります。産業そのものが、根本から姿を変えていたのです。
参考:星街すいせいのアーティスト活動強化を目的とした個人事務所「Studio STELLAR」設立および新支援体制への移行に関するお知らせ - ホロライブプロダクション

カバー社の決算は、VTuber産業が「投げ銭ビジネス」から「IP型の芸能ビジネス」へと姿を変えたことをはっきり示しています。この変化は、数字の上ですでに後戻りできない段階に入っています。
VTuber事務所と聞くと、「ライブ配信で視聴者から投げ銭をもらって稼いでいる会社」と思う方が多いかもしれません。数年前まで、そのイメージは正しいものでした。
しかし、カバー社の決算説明資料に掲載されたサービス別売上構成比を見ると、状況が一変しています。

投げ銭やメンバーシップを含む「配信/コンテンツ」の売上構成比は、2021年3月期の46.0%から2025年3月期には21.5%まで下がっています。4年で半分以下です。売上のほぼ半分を占めていた配信収入が、今や5分の1の規模まで縮小しました。
ここで一つ、誤解を解いておく必要があります。配信収入の金額そのものは減っていません。配信/コンテンツ分野の売上高は、2024年3月期で76億4,700万円(前期比20.6%増)、2025年3月期では93億2,300万円(前期比21.9%増)と、毎年20%以上のペースで伸び続けています。
配信以外の事業がそれ以上のスピードで伸びたため、配信の「比率」だけが相対的に下がったのです。
配信に代わって急成長しているのが、ライセンス・タイアップ事業と、マーチャンダイジング(グッズ販売)事業です。

ライセンス/タイアップの売上構成比は、2021年3月期の7.5%から2024年3月期には14.7%へと約2倍に広がりました。マーチャンダイジングも同じ期間で32.3%から41.4%へ拡大しています。金額ベースでは、ライセンス/タイアップ分野が2024年3月期に44億4,000万円(前期比65.9%増)、マーチャンダイジング分野は124億7,700万円(同55.9%増)という規模に達しています。
ライセンス事業とは、かんたんに言うと「キャラクターや名前を他の企業に貸し出して使用料を受け取るビジネス」です。コンビニとのコラボキャンペーン、食品メーカーとのタイアップ、ゲーム会社へのキャラクター提供——これらがライセンス収入に含まれます。
この事業モデルに聞き覚えはないでしょうか。芸能事務所が、所属タレントの肖像権やブランド力を使って収益を上げる仕組みとまったく同じです。カバー社の2024年3月期の売上高は301億6,600万円(前期比47.5%増)に達しており、その過半が今やIPコマース事業から生まれています。
関連記事:【キャラ活用】IPビジネスがアニメ事業のチャンスに!自社IPの可能性とは?
この変化は、偶然ではありません。カバー社の戦略そのものの結果です。
カバー社は2024年3月期決算説明資料の中で、中長期戦略として「①VTuberビジネスの確立、②IPビジネスへの進化、③クリエイター経済圏の拡大」という3段階の事業戦略を正式に掲げています。VTuberビジネスを土台としつつ、IPビジネスへと事業の重心を移し、最終的にはクリエイター経済圏の拡大を目指す構図です。

この戦略の実行は、数値にも明確に表れています。
マーチャンダイジングとライセンス/タイアップを合わせたIPコマース収益の構成比は、2021年3月期の39.8%から2024年3月期には56.1%、2025年3月期には60.5%まで上昇し、売上高の過半を占めるようになりました。
カバー社自身も資料の中で、この変化を「IPカンパニー型の収益構造に変化」と公式に位置づけています。

業界全体の動きも同じ方向を向いています。矢野経済研究所の調査によれば、2023年度のVTuber市場800億円のうち、グッズ領域が55.6%、BtoB(タイアップ広告・IPライセンス)が16.4%と、両者で約7割を占め、ライブストリーミングは20.0%にとどまります。
つまり、業界全体としてライブストリーミング依存型の構造から、多面的なIPビジネスへと舵を切っているのです。しかし、ここで一つの疑問が残ります。この変化がすでに進んでいたのなら、なぜ2022年以前にはVTuberのテレビ出演や大型タイアップがほとんどなかったのでしょうか。
参考:VTuber市場に関する調査を実施(2025年)- 株式会社矢野経済研究所
2017〜2018年に急速に広まったVTuberは、ホロライブやにじさんじといった大手グループの成長とともに、チャンネル登録者数を伸ばしていきました。ただし主戦場はあくまでYouTubeを中心とした配信プラットフォームで、地上波の主要音楽番組や全国規模の興行に正面から登場する事例は限られていました。
2023年以降、この風景が変わり始めます。

2023年4月、日本テレビがVTuberとリアルアーティストが共演する音楽番組『MUSIC VERSE』を毎月最終木曜の深夜枠でスタートしました。ホロライブ所属の大空スバルがレギュラーMCを務め、地上波番組のレギュラーをVTuberが担当する形が登場します。

同年12月、ホロライブ所属の宝鐘マリンが、フジテレビ系の音楽特番『FNS歌謡祭』にオリジナル楽曲「美少女無罪♡パイレーツ」で出演し、VTuberとして同番組初出演を果たしました。年末の大型音楽特番にVTuberが本枠で歌唱したのは、これが初です。

ライブ興行の規模も大きく変わります。にじさんじの人気ユニット「ChroNoiR」(叶・葛葉)は2024年4月20日、大阪城ホールで単独ワンマンライブ「Welcome to Wonder Wander World」を開催しました。
大阪城ホールは1万人規模を収容する大型会場です。ここでVTuberが単独ワンマンを成立させたという事実は、配信プラットフォームの外側で勝負する興行アーティストとして、十分な集客力と作品力が認められた証拠です。
映像メディアとの連携も進みます。星街すいせいは2025年1月17日公開の劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』に、新曲「もうどうなってもいいや」を挿入歌として提供。同曲はその後TVシリーズ版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』のエンディングテーマにも起用され、オリコン週間デジタルシングルランキングで1位を獲得しました。
ガンダムシリーズはサンライズが半世紀近く展開してきた、日本のアニメ産業の中核IPです。
その最新作の挿入歌・EDテーマを、VTuberが書き下ろし楽曲で担当するというのは、メジャーアニメの楽曲提供アーティストとしての座にVTuberが座ったということを意味します。
テレビ、ライブ興行、映画・アニメ。それぞれの領域で2023年以降に起きた出来事は、ホロライブ・にじさんじ両大手から横並びで起きています。VTuberというカテゴリが、配信プラットフォームの内側だけで完結する文化ではなくなった——そのことを示す動きです。
参考:劇場版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning.』に、星街すいせいが、新曲「もうどうなってもいいや」を挿入歌として提供 - ホロライブプロダクション

本記事で確かめた事実を整理します。
星街すいせいは日本武道館での単独ライブ、VTuber初のストリーミング1億回突破、クリオ賞受賞、個人事務所設立という、生身の芸能人と並ぶ実績を達成しています。カバー社の決算は、配信収入の構成比が2021年3月期の46.0%から2024年3月期の25.3%へとほぼ半減する一方で、ライセンス/タイアップが7.5%から14.7%へと約2倍に高まっているという変化を裏付けています。そして2023年を境に、VTuberのテレビ進出は「たまに呼ばれるゲスト」から「番組の主役」へと質的に変わりました。
VTuber市場は2023年度に800億円に達し、2025年度には前年度比120.0%の1,260億円規模になると予測されています。この市場を「自分たちの範囲外」と見なし続ける判断は、慎重さのつもりでも実際には機会を手放しているだけです。
VTuberは、もう「新しい何か」ではありません。芸能人の一カテゴリです。この前提で業界の地図を描き直したとき、次にキャスティングすべきタレントが誰なのか、見え方が変わってくるはずです。
関連記事:にじさんじ・ホロライブ人気ランキングの結果は3つある?登録者数・ファン投票が暴く"本当の価値"
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1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。