NOKID編集部
1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。
駅の中を歩いていると、甘い香りと黄色い看板が目印の「ビアードパパの作りたて工房」を見かけたことがある人は多いでしょう。あのヒゲのおじいさんのキャラクターは、なぜこれほど長く愛され続けているのでしょうか。
「うちもオリジナルキャラクターを作れば差別化できるのでは?」そう考えたことがあるブランドの担当者は少なくないはずです。そして、いざ実践してみても知名度が足らなかったり、どう活用すれば良いのか曖昧なままになるケースが多くあります。
じつは、ビアードパパのIP戦略には、中小企業でも実践可能な活用方法のヒントが隠されているのです。
そこで今回は、ビアードパパ「ヒゲのおじいさん」の活用事例を徹底分析し、なぜ「ヒゲのおじいさん」が25年間愛され続けるのか?どうやって企業キャラを育てるべきかを紐解いていきます。
キャラクターを「自社に合う見栄えか?」だけで作っても、顧客から受け入れられないことがほとんどです。なぜなら、ユーザーは多くの情報に晒されており、自分が興味を持つものしか見ないからです。興味を持つことは、共感したり何らかの感情的な刺激が必要になります。そのためには、キャラクターの人格や設定などが重要だということです。魅力的なキャラクターを作る要素などの「キャラクター作りのポイント」を「無料資料ダウンロードページ」で公開中です。ぜひ活用してみてください。


ビアードパパの事例から分かるのは、キャラクターIPは成長してから作るものではなく、初期段階から設計するものということです。
多くの人は「ビアードパパは資金力があるから、キャラクターに投資できる」と思っているかもしれません。ですが、ビアードパパも最初から大規模な予算を使えたわけではありません。

1997年にパン屋として創業し、1999年に福岡に1号店をオープンしました。創業わずか2年後にシュークリーム専門店としてスタートを切ったタイミングで、すでに「ヒゲのおじいさん」というキャラクターを核にしたブランド設計を行っていたのです。
例えば、1号店のオープン以後、出店する店はすべて長蛇の列ができました。この初期の成功と堅調な成長があったからこそ、年間150店の出店計画という強気の戦略に舵を切れたのです。
つまり、キャラクターIPという資産を創業初期から持っていたことが、急速な成長を支える基盤になったという見方ができるのです。
広告は打てば消えますが、IPは一度作れば残るブランド資本となります。予算が限られているからこそ、毎月広告費に消えていくお金(即効性は期待できるため重要ではあるもの)ばかりではなく、顧客の記憶に残り続ける「資産」を持つという選択をしたのかもしれません。
参考:「ビアードパパ」成功の秘密、シュークリームで世界を魅了する挑戦 - Bplatz

ビアードパパのIPは、単なる可愛いマスコットではなく、ブランドの約束を体現する人格として設計されています。
「できたて」「作りたて」という言葉は、誰でも使えます。しかし、それを本当に信じてもらうのは別の話です。広告で100回「できたてです!」と叫んでも、顧客の心には届きません。なぜなら、それは抽象的な主張に過ぎないからです。
ビアードパパが行ったのは、この抽象的な価値を擬人化するという戦略でした。具体的には以下のようになります。
| 顧客への約束 | できたて・作りたて |
| 実現できる仕組み | 熟練した職人が丁寧に作る |
| イメージ化(擬人化) | ヒゲのおじいさん |
ですが、なぜ「おじいさん」なのでしょうか?
「おじいさん」は、多くの文化において祖父・ベテラン・伝統の継承者という普遍的なイメージを持ちます。さらに「ヒゲ」という見た目の特徴は、熟練した職人や料理人を連想させる記号として世界中で理解されます。

ビアードパパのキャラクターは、「できたて・作りたて」という目に見えない品質価値を、「熟練した職人=ヒゲのおじいさん」という目に見える信頼の記号に変換しているのかもしれません。
こうしたブランドと密接に絡み合ったデザインは、イラスト制作をフリーランスに低コストで外注するだけでは実現できません。
自社が顧客に約束している核心的な価値は何か? それをどのような人格に翻訳できるか? この問いに真剣に向き合った結果が、「ヒゲのおじいさん」という答えだったのです。
参考:ビアードパパについて - 株式会社DAY TO LIFE

ビアードパパのキャラクターが25年間愛され続ける理由は、特定の流行や文化に依存しない普遍的な価値を体現しているからだと感じます。
今では、黄色い看板とヒゲのおじいさんでお馴染みのシュークリーム専門店として認知されています。この「黄色」と「ヒゲ」という組み合わせは、遠目からでも瞬時にビアードパパだと認識できるアイコンになっています。
特に、黄色はカスタードクリームの濃厚な色であり、焼きたての製品が持つ温かさを表現し、食欲を刺激する色です。
これを「おじいさん」という伝統・安心のイメージと組み合わせることで、「元気で新鮮なものを、経験豊かで信頼できる人が提供する」というメッセージを伝えることに成功している見方ができます。
さらに重要なのは、時間的価値の蓄積です。ビアードパパは1999年にオープンし、2019年で20周年を迎えました。子ども時代に食べていた人も立派な大人になりました。
つまり、親子二世代で愛されるという「時間的価値」が蓄積されているということです。
子どもの頃に親と一緒にビアードパパのシュークリームを食べた記憶は、大人になっても消えません。そして今度は自分の子どもと一緒に買いに行く…と続いていきます。
このような価値は、短期的なバズでは絶対に得られないものです。こうして子どもからお年寄りまで、広い世代になじみのあるチェーンとして存続してきています。
参考:「ビアードパパ」意外と知られていないその全容 - 東洋経済ONLINE
ビアードパパの真の強さは、キャラクターが単独で機能しているのではなく、実演販売という体験設計と一体化していることにあります。
キャラクターを作ればそれだけで差別化できると考えるのが一般的な認識ではないでしょうか。しかし、ビアードパパはそうではありません。キャラクターと体験が共犯関係を築いているのです。
ビアードパパの人気の秘密は商品力であり、材料のこだわりはもちろん、その場でクリームを詰める実演販売スタイルで表面はサックリ、中はしっとりもちもちとした食感を実現しています。
店舗で注文を受けてからクリームを詰めるので、実演販売のイベント性と、作りたての新鮮さが楽しめます。
例えば、この構造を分解すると以下のようになります。

「ヒゲのおじいさん=熟練職人が丁寧に作る」
目の前でクリームを詰める行為が、約束が実現されることを伝える
購入後もパッケージのキャラクターが「あのおじいさんが作ったもの」という記憶を強化する
つまり、キャラクターが「約束」を提示し、実演販売がその「証明」を行い、パッケージが「記憶」を定着させるという構造になっているのです。
もし実演販売がなく工場で作られたシュークリームが並んでいるだけなら、「ヒゲのおじいさん」の約束は空疎なものになります。
逆に、実演販売だけがあってキャラクターがなければ、その体験は記憶に残りにくくなるのではないでしょうか。

ビアードパパの競争優位性は、時間をかけて蓄積された資産(キャラクター)以外にも、コンセプトや体験の提供など、他社には簡単に真似できません。
近年、ビアードパパは競合との厳しい戦いに直面しています。コンビニエンスストアなどで販売しているシュークリームの味が向上している点はネガティブな面として考えられます。
専門店であるビアードパパにはまだ及ばないものの、手軽さや商品ラインナップのバリエーションという点ではコンビニエンスストアに軍配があがります。
しかし、ビアードパパは明確な戦略で対抗しています。
「コンビニがつくる商品と同じコンセプトで勝負しても負ける。コンビニでは買えない”できたて、作りたて”の商品にこだわっています。」
例えば、差別化の構造を3つに分解すると、以下のようになります。
| 機能:できたての食感・味 → コンビニが技術向上で侵食可能 体験:実演販売の劇場性・目の前で作られる安心感 → コンビニの店舗フォーマットでは複製困難 感情:ヒゲのおじいさんへの愛着・25年間の歴史 → 時間をかけて蓄積された資産であり、完全に複製不可能 |
つまり、コンビニはスイーツという機能を侵食できても、体験や情緒の面までは複製できないということです。
味はレシピさえあれば真似できます。しかし、「ヒゲのおじいさんが目の前で作ってくれた」という文脈は、真似できません。これこそが、IPの生み出す「競争優位性」なのです。

ビアードパパのIP活用は、顧客が接触するすべての瞬間で一貫した世界観を提供する設計になっています。
IPをWebサイトやパッケージに載せるだけでは、その価値は半分も活用できていません。ビアードパパは、顧客動線のすべての接点でIPを機能させています。
もちろん味が美味しいというのは前提として不可欠ですが、それはあくまで「機能」となるため、実演販売による体験やキャラクターという要素はビジネス拡大する上で重要となります。
黄色い看板とヒゲのおじいさんでお馴染みという認知は、以下の展開によって実現されています。
| 1.認知・誘導 (看板) | 駅ナカや商業施設で、遠くからでも「ビアードパパがある」と気づかせるアイキャッチ |
| 2.イベント体験 (着ぐるみ) | ゆるキャラらしく2.5頭身で製作された着ぐるみを活用し、店舗前やイベントでキャラクターを「実在化」させる |
| 3.購入体験 (実演販売) | 目の前でクリームを詰める瞬間に、キャラクターの約束が証明される |
| 4.記憶定着 (パッケージ) | 持ち帰った後も、パッケージのキャラクターが「あのおじいさんが作ったもの」という記憶を強化する |
つまり、顧客がビアードパパと接触するすべての瞬間で、「ヒゲのおじいさん」が立ち会っているということです。こうした一貫性があることがブランドの価値を高めることになるのです。
ビアードパパのIP活用は、自社キャラクターだけに留まりません。じつは他社IPとの戦略的コラボレーションも展開しています。
2011年には日本国内の夏のキャンペーンプロモーションとして、ハリウッド3D映画『スマーフ』の日本公開を契機に、ベルギーの人気キャラクターであるスマーフを日本で最初にキャンペーンキャラクターとして起用し、店頭・雑誌・Web・モバイルを中心としたキャンペーンを展開しました。
どのような意図があるかを見ていきましょう。
・スマーフ映画の話題性で新規層にリーチ
・既存のビアードパパファンに新しい体験を提供
・「日本で最初」という希少性で報道価値を創出
つまり、重要なのは、このコラボが自社IPを損なっていない点です。ビアードパパのキャラクターは残しつつ、スマーフというIPを追加することで、話題性と限定性を獲得しています。
コラボの取り組みは、IPが確立されているからこそ可能な戦略です。自社IPが弱ければ、コラボによって自社ブランドの印象は薄くなってしまいます。
ビアードパパは、25年かけて築いた強固なIPがあるため、外部IPとコラボしても自社の存在感を失わないのです。
関連記事:キャラクターを用いたコラボ戦略と活用事例から成功の秘訣を探る
着ぐるみの重要な機能は、キャラクターを「実在化」させ、ブランドへの感情的結びつきを強化することです。
IPをWebサイトやパッケージに載せるだけでは、その価値は半分も活用できていません。ビアードパパは、IPを「生きたメディア」として機能させています。
ゆるキャラらしく2.5頭身で製作された着ぐるみが存在しており、キャラクターデザインは徳治昭氏が担当しています。
では、なぜ2.5頭身なのでしょうか?これには以下のような意図が感じられます。
・親しみやすさと記憶定着の両立
・子どもが怖がらないサイズ感
・ゆるキャラブームとの親和性
つまり、着ぐるみによってブランドの存在を具体的なものにして、人と同じような結びつきを実現しているのです。
Webサイトやパッケージでは、キャラクターは二次元の存在に過ぎません。しかし、店舗前やイベントで着ぐるみが登場すれば、顧客は「本物のビアードパパに会えた!」という体験ができるからです。
特に子どもにとって、この体験は強烈な記憶として残ります。そして25年後、その子どもが大人になって自分の子どもと一緒に来店する──この循環こそが、IPが生み出す長期的価値なのです。
関連記事:ゆるキャラの成功事例と作り方を解説!キャラクターでPR効果を生むには
ビアードパパは日本国内に160店、海外に217店を展開しています。海外展開において、IPの価値はさらに高まります。
なぜなら、IPは言語の壁を超えるコミュニケーション手段だからです。
海外でのIP活用は、言語(ブランドの考え)が通じなくてもキャラクターのビジュアルは覚えてもらえますし、着ぐるみによる体験は感情的な結びつきを生むことをよく理解しているからかもしれません。
つまり、これは広告コピーや商品説明が翻訳の壁にぶつかるのとは対照的です。
IPは、グローバル展開において極めて効率的なブランド資産なのです。特に「ヒゲのおじいさん=熟練・職人」という印象は、多くの文化で共通して理解されるため、ローカライズのコストを大幅に削減できます。
関連記事:キャラクターをマーケティングで活用するには?アニメコラボCMの事例や戦略を紹介
参考:ビアードパパ 3代目着ぐるみ 当社で作成! - ご当地着ぐるみを大スターにするブログ


「髭乃助」は単なる新ブランドではなく、25年かけて蓄積したIPという資本を、新しい市場に再投資する戦略です。ビアードパパは2021年、この資本を活用した戦略的展開を行いました。
具体的には、西武新宿ペペに新ブランド「髭乃助」の第1号店を2021年7月7日オープンしました。
ビアードパパの和製版で、和を包み込むシュークリームをコンセプトに、和三盆糖、抹茶、きな粉などの和の素材を使用しています。
例えば、ここで注目すべきは、「髭」というDNAを継承している点です。なぜまったく新しいキャラクターではなく、「髭」を継承したのでしょうか?それは、ビアードパパのIPが持つ本質的価値である「信頼・熟練・職人性」を再利用するためかもしれません。
「髭=職人の信頼」というブランド資本は、25年かけて蓄積されました。これを和風という新しい文脈で再投資することで、ゼロから信頼を構築するコストを大幅に削減できます。
これは、IPが持つブランド資本を拡張した戦略の参考事例と言えるでしょう。

髭乃助のIP戦略は、既存ファンの裾野拡大と新規顧客の開拓という二重の構造になっています。
ビアードパパを知っている顧客に対して、「あのビアードパパの和風版か!」という認識を与え、新しい価値として提供します。
新規層の開拓は「洋風のシュークリームはちょっと…」と感じていたり、そもそもビアードパパを知らない人に、ブランドを知ってもらうきっかけを増やすイメージです。
和三盆糖、抹茶、きな粉などの和風素材を使用することで、商品自体は明確に差別化されていますが、「ヒゲ」という“ブランドらしさ”は共通しています。
つまり、同じIPコンセプトで異なる顧客層にリーチするという、極めて効率的な戦略が実現されているのです。
本家で蓄積した信頼性を活かしながら、新しい市場を開拓するのは、IPが成長した企業だからこそ可能な展開と言えます。
参考:シュークリーム専門店“ビアードパパ”から生まれた「和」を包み込むシュークリーム新業態“髭乃助”1号店が西武新宿ペペ(東京都新宿区)にグランドオープン! - PR Times
ここまでのポイントをまとめます。
ビアードパパのIP戦略は、商品・体験・記憶のすべてにIPが作用する“設計”そのものでした。これこそが、オリジナルキャラクターを差別化する手段ではなく「長期資産」として機能させる最大のヒントかもしれません。
「できたて・作りたて」という抽象的な約束を、「熟練した職人」という具体的なキャラクターとして実在化させ、実演販売という体験設計と統合し、25年かけて育て続けた結果です。
多くの企業が間違えるのは、IPを「バズらせる道具」として見てしまうことです。しかし本質は違います。IPは、自社ブランドの約束を体現し、時間をかけて蓄積されていく資産なのです。
株式会社NOKID(ノーキッド)はショートアニメ/アニメーションCMの企画・制作・SNSアカウント運用・プロモーションを得意とする東京の企画・制作会社です。キャラクターIPの開発・企画立案・制作からプロモーション企画立案・実施まで話題性を意識したサービス提供が可能です。

・キャラクターをマーケティングで活用するには?アニメコラボCMの事例や戦略を紹介
・キャラクターを活用するメリットとは?デメリットや効果も解説
・【顧客拡大】キャラクター活用のリブランディング戦略とは?失敗例も紹介
・【キャラ活用】IPビジネスがアニメ事業のチャンスに!自社IPの可能性とは?
・海外でアニメを展開するやり方は?失敗原因・リスクを事例にもとづいて解説
・【企業向け】VTuberの始め方は?新規プロジェクトを成功させるポイントを紹介
・キャラクターを用いたコラボ戦略と活用事例から成功の秘訣を探る
・ブランドのファンを増やすオリジナルグッズ・ノベルティとは?具体的な効果や制作方法を紹介
・にじさんじのコラボ商品は何がある?他社事例を分析してまとめてみた
・なぜ企業同士のコラボ事業が注目されるのか?参考事例までPR会社が解説
・【IPコラボ商品・キャンペーン】参考になる事例から学ぶ!成功させるポイントを紹介
・【IPコラボ】学習教材×マンガが売れた秘密とは?活用事例・ポイントも紹介
・キャラクターライセンスとは?他社IPを活用してブランド価値を高める方法を紹介

NOKID編集部
1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。