NOKID編集部
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「企業のマスコットにキャラクターなんて不要だ」などと社内会議でそう言われ、提案を却下された経験はありませんか?
あるいは、「リブランディングで既存顧客が離れるリスクが怖い」「ヤンマーのような大企業だからできることで、うちには関係ない」そんな声が社内から上がり、一歩踏み出せずにいるかもしれません。
じつは、ヤンマーホールディングス株式会社の企業キャラクター「ヤン坊マー坊」は、1959年の誕生から現在まで、なんと9回ものデザイン変更を経験しています。
9台目のデザインは、76,568票というグローバル投票によって選ばれました。
この事例から分かることは、キャラクターは時代とともに変化すべき部分があるということです。そして何より、ヤンマーの成功は大企業だからできたのではなく、明確なビジョンと周囲を巻き込んだプロセスによって実現したものなのです。
そこで今回は、ヤンマーの65年にわたるキャラクター戦略を詳細に分析し、企業のマスコットキャラクターが意味のあるものなのかを考えていきます。
キャラクターを「自社に合う見栄えか?」だけで作っても、顧客から受け入れられないことがほとんどです。なぜなら、ユーザーは多くの情報に晒されており、自分が興味を持つものしか見ないからです。興味を持つことは、共感したり何らかの感情的な刺激が必要になります。そのためには、キャラクターの人格や設定などが重要だということです。魅力的なキャラクターを作る要素などの「キャラクター作りのポイント」を「無料資料ダウンロードページ」で公開中です。ぜひ活用してみてください。

ヤン坊マー坊は1959年に誕生し、以来65年以上にわたって愛され続けている企業キャラクターです。双子の兄弟という基本設定は一貫して維持されながら、時代ごとにデザインが進化してきました。
初代から2代目、3代目と変遷を重ねる中で、ヤン坊マー坊は単なる「かわいいマスコット」から、「ヤンマーという企業を体現する存在」へと役割を深化させてきました。特に注目すべきは、これほど多くの変更を経験しながらも、ブランドの一貫性を失わなかった点です。
多くの企業が「一度決めたブランドは変えてはならない」という固定観念に縛られる中、ヤンマーは逆に「変え続けることでブランドを守る」ことを選択しています。
2019年には誕生60周年を記念してCGを取り入れた8代目が登場し、2024年には9代目「ヤン坊マー坊」への大幅なリニューアルが実施されました。
参考:ヤン坊マー坊の変遷 - ヤンマーホールディングス株式会社
ヤン坊マー坊と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、「ヤン坊マー坊天気予報」でしょう。1959年から2014年まで55年間にわたってテレビで親しまれてきたこの天気予報コーナーは、ヤンマーの高い認知度獲得に大きく貢献しました。
実際に筆者も当時のことを覚えているほど、確固たるポジションを築いていました。
ヤンマーの広報によれば、天気予報番組を開始した理由は「1950年代、農業や漁業にとって天気は重要な情報であり、ヤンマーが深く関わってきた農家・漁師のみなさまに役立つ情報を届けるため」だったそうです。
しかし、ここに戦略的なギャップが存在していました。「天気予報のキャラクター」としての認知は高いものの、ヤンマーの本業である大型舶用エンジン、産業エンジン、建設機械、農業機械といった産業技術との結びつきが弱かったのです。
9代目へのリブランディングでは、この課題を解決するため、新ブランドステートメント「心を動かし、未来を動かす」を掲げています。
キャラクターの役割を「認知獲得の手段」から「企業ビジョンを体現する存在」へと再定義したのです。具体的には、TVアニメ『未ル わたしのみらい』へ登場したり、痛トラクターのイベント展示など、多角的にチャレンジをしています。
このように、キャラクターを単なるデザイン変更するのではなく、ブランディングと紐付けて進化させる高度な取り組みと言えるでしょう。
参考:ヤン坊マー坊に大革命!批判も恐れずデザインリニューアルに踏み切ったヤンマーの想いとは? - ウォーカープラス
参考:TVアニメ『未ル わたしのみらい』4月2日(水)よりMBS、TOKYO MXにて放送開始! - ヤンマーホールディングス株式会社
ヤンマーのアプローチで最も注目すべきは、キャラクターを「動的資産」として管理している点です。多くの企業がキャラクターを作るだけで終わってしまう中、ヤンマーは継続的に投資し、時代に適応させ続けています。
この背景には、市場環境の変化があります。デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展、サステナビリティへの関心の高まり、そして何より、天気予報のマスコットとしてのヤン坊マー坊を知らない世代という「新しい価値観を持つ未来の顧客層」の台頭です。
ヤンマーは2023年11月から12月にかけて、3つのデザイン案に対するグローバル投票を実施しました。

総投票数76,568票のうち、B案が約65%にあたる49,628票を獲得し、9代目デザインに決定しています。
ヤンマーは、こうした世代に対応するため、キャラクターを通じた情報発信を強化しました。従来の一方通行の広告から、ファンが参加できる共創型ブランディングへとシフトしたのです。76,568票のグローバル投票は、まさにその象徴と言えるでしょう。
参考:次世代のワクワクする気持ちを未来の原動力に 「心を動かし、未来を動かす」ヤン坊マー坊の新デザインを決定 - ヤンマーホールディングス株式会社
参考:「心を動かし、未来を動かす」新ヤン坊マー坊、キャラクターデザインの一般投票を開始 - ヤンマーホールディングス株式会社
リブランディングにおける最大のリスクは、既存ファンからの反発です。長年親しまれてきたブランドを変更することは、「今までのものが好きだったのに」という裏切られた感情を生み、顧客離反につながる可能性があります。
ヤンマーは、76,568票を集めたグローバル投票で最終デザインをファン自身に選んでもらったことで、反発リスクを回避しています。
もちろんイベント化による認知効果もあるでしょうが、それは元々のファンがいてこそ成り立つ話なのでヤンマーの継続投資が効いている印象です。
この手法の優れている点は、3つあります。
まずは、投票プロセスへの参加そのものが、ファンとのエンゲージメントを深めます。「自分が選んだデザイン」という意識が生まれることで、新デザインへの愛着が自然に形成されるのです。
次に、グローバル規模での投票は、リブランディングの正当性を客観的に証明できます。「7万6千人以上が選んだデザイン」という事実は、社内外のステークホルダーに対する強力な説得材料になります。
新しいデザインを採用しても、それを知ってもらうハードルがあります。投票プロセス自体が大きな話題となることは、メディア露出やSNS拡散を生み出します。これは実質的に、リブランディングのプロモーション費用を抑えながら、高いPR効果を得られることを意味します。
ヤンマーの広報担当者は、「2023年6月にヤンマーオリジナル商業アニメ『未ル』の制作を発表したのですが、このとき、国内外で大きな期待が寄せられるとともに、SNSを中心にヤン坊マー坊に改めて注目が集まりました」とコメントしています。
この注目の高まりを受けて、一般投票という形でのデザインリニューアルに至ったのではないでしょうか。
参考:目指すのは「人のためのものづくり」。ヤンマーデザインの本質を、CBO長屋明浩が語る - ヤンマーホールディングス株式会社
76,568票という数字は、単に多くの人が参加したという話ではありません。
ヤンマーは大型舶用エンジン、産業エンジン、建設機械、農業機械など、多岐にわたる事業を世界中で展開しています。世界各地に拠点を持っており、投票参加者には海外の取引先、エンドユーザー、そして社員も含まれているはずです。
経営層が決定して現場に下ろすのではなく、現場やファンを巻き込み、ボトムアップで正当性を積み上げていく手法は「リブランディングはトップダウンで決めるもの」という従来の常識を覆す、今はまだ希少とも言える進め方です。
特に保守的な組織文化を持つ企業においては、変化を起こすきっかけとなりやすい方法と言えるでしょう。
実際、BtoB企業のマーケティング担当者が直面する課題のひとつに、経営層の説得が難しいことが挙げられます。
「BtoB企業にキャラクターは不要」「リスクが高すぎる」「ROIが証明できない」などの反対意見に対し、「7万6千人が支持したデザインです」という事実は、議論の余地を残さない説得力を持ちます。
さらに、投票プロセスは社内のモチベーションアップにもつながります。世の中に注目される企業の一員という帰属意識や、「自社のキャラクター」という意識が高まります。
ブランディングにおいて、こうした「インナーブランディング」を考えることも重要なため、参考にすべき取り組みと言えるでしょう。

リブランディングにおいて最も難しいのは、「何を変えて、何を変えないか」の判断です。すべてを変えればブランドの連続性が失われ、何も変えなければ時代に取り残されます。
ヤンマーの9回のリブランディングで一貫して守られてきたのは、「双子の兄弟」という設定と、「ヤン坊・マー坊」という名前です。
ヤン坊が兄でマー坊が弟、ヤン坊は「探究心に溢れるしっかりもの」、マー坊は「好奇心旺盛であわてんぼう」というキャラクター設定も維持されています。
これが、ブランドの「変えてはいけない核」だったのです。
初代のヤン坊マー坊は4頭身のスリムな印象で、アニメーターの中邨靖夫氏が描いた愛らしいイメージが人気となりました。その後、時代のトレンドに合わせて徐々に変化し、等身は低く、子どもらしいはつらつとした表情が印象的なキャラクターになっていきました。
8代目(2019年)では、CGを取り入れた立体的なデザインが採用され、佐藤可士和氏が監修しました。そして9代目では、よりグローバルで未来志向的なビジュアルに進化し、デジタルメディアでの展開を意識したデザインとなっています。
参考:「ヤン坊マー坊」新デザインを一般投票で決めた理由 アニメ化も - 日経クロストレンド

9代目リブランディングで特に注目すべきは、「痛トラクター」の展示です。痛車(いたしゃ)とは、アニメやゲームのキャラクターを車体に大きく描いた車のことで、オタク文化の象徴とも言えます。
ヤンマーは、自社の農業機械であるトラクターに、TVアニメ『未ル』のキャラクターを描いた「痛トラクター」を2025年3月のAnimeJapan 2025で展示しました。その後、6月の「ちゃやまち推しフェスティバル2025」でも展示されており、伝統的な産業機械メーカーとしては大胆な挑戦です。

なぜ、ヤンマーはこのような冒険をしたのでしょうか。筆者は、以下のような理由が考えられると感じました。
遊び心やユーモアを持ち、柔軟に文化を取り入れる企業に好感を持ちやすいのは言うまでもないでしょう。痛トラクターは、「ヤンマーは堅苦しくない、面白い会社だ」というメッセージを伝える上で役立っているはずです。
産業機械メーカーの展示会情報が一般メディアやSNSで拡散されることは稀ですが、「痛トラクター」は十分なニュース性を持ちます。実際、この取り組みは多くのメディアで取り上げられ、ヤンマーのブランド露出に大きく貢献しました。
競合他社が従来型のマーケティングを続ける中、ヤンマーは「ポップカルチャーを取り入れる産業機械メーカー」という独自のポジションを確立しました。これは、採用活動においても有効です。若手求職者は、「働きたい会社」を選ぶ際、給与や福利厚生だけでなく、企業文化や価値観を重視します。
痛トラクターという挑戦は、「私たちは変化を恐れず、新しいことに挑戦し続ける企業です」というメッセージを、言葉ではなく行動で示したのです。
参考:TVアニメ『未ル わたしのみらい』 AnimeJapan 2025に出展、痛トラクター展示が決定! - ヤンマーホールディングス株式会社
参考:AnimeJapan 2025に出展、痛トラクター展示が決定! - TVアニメ『未ル わたしのみらい』公式サイト
参考:TVアニメ『未ル わたしのみらい』、ちゃやまち推しフェスティバル2025に出展、痛トラクター展示も決定! - PR Times
ヤンマーの9代目リブランディングは、単なるデザイン変更にとどまりません。
TVアニメ『未ル わたしのみらい』は、ヤンマーが製作・プロデュースを手がけるオリジナル商業アニメで、2025年4月2日からMBSとTOKYO MXで放送開始されました。
全5話のオムニバス形式で、「機動戦士ガンダム」シリーズを手がけた植田益朗氏が総合プロデューサーを務めています。
TVアニメ化は、キャラクターに物語性を与えます。単なるマスコットではなく、「ストーリーを持つキャラクター」として認識されることで、ファンの感情移入が深まります。
ヤンマーの65年の歴史が教える最大の教訓は、キャラクターは「育て続ける」ものであるということです。
多くの企業がキャラクターマーケティングで失敗する理由は、初期投資だけに注目し、継続的な育成を怠るからです。キャラクターを作り、Webサイトに掲載し、名刺に印刷する…それで終わってしまうのです。
しかし、キャラクターは生き物のようなものです。定期的にコンテンツを発信し、ファンとの対話を続け、時代に合わせてビジュアルや役割を進化させる。こうした継続的な投資があって初めて、ブランド資産として価値を持ちます。
ヤンマーは、65年にわたってこの投資を続けてきました。天気予報への出演(1959年〜2014年)、9回のデザイン変更、そして最新のTVアニメ化など、どれも「ヤン坊マー坊」というブランド資産を維持・強化するという明確な意図の下で実行されています。
これは、経営層の理解とコミットメントなしには実現できません。マーケティング担当者が孤軍奮闘するだけでは、継続的な投資は困難です。
だからこそ、経営層に対して「キャラクターは動的資産である」という認識を共有し、長期的視点での理解を得る必要もあるのです。
「ヤンマーは大企業だからできたことで、うちのような企業には関係ない」というのは、多くの販促担当者が口にする言葉です。しかし、この認識は誤りです。
ヤンマーのリブランディングを支えたのは、たくさんの資金を使ったことよりも「明確なビジョン」があることです。新ブランドステートメント「心を動かし、未来を動かす」は、企業が目指す方向性を端的に表現したものです。
このビジョンがあったからこそ、9代目デザインの方向性が定まり、投票プロセスの設計ができ、TVアニメ化やイベント展開といった多角的な施策が一貫性を持って実行されたのです。
逆に、どれだけ予算があっても、ビジョンが不明確であれば施策は思いつきばかりで効果は出ません。中堅企業であっても、「自社はどこに向かうのか」「キャラクターを通じて何を伝えたいのか」を明確にすれば、ヤンマーと同様の戦略的アプローチは十分に可能です。
ヤンマーは”人の可能性を信じ、人の挑戦を後押しする”という価値観「HANASAKA(ハナサカ)」のもと、「人の豊かさ」と「自然の豊かさ」を両立した持続可能な社会”A SUSTAINABLE FUTURE”の実現を目指しています。
ヤンマーの事例から導き出される教訓は、「デザインは柔軟に、アイデンティティは堅固に」というリブランディングの考え方です。
赤色と青色のイメージカラーも、9回の変更を通じて一貫して維持されています。このデザイン面での一貫性が、ブランド認知と想起を保証しているのです。
ヤンマーの「双子」「ヤン坊・マー坊」「赤と青のイメージカラー」というアイデンティティは堅固に守りながら、ビジュアル表現は時代に合わせて柔軟に変化させるという戦略こそが、65年にわたってブランドを維持し続けた秘訣なのかもしれません。
この価値観こそが、9回のキャラクターリニューアル(リブランディング)を支えてきた根本にあるのでしょう。
ここまでのポイントをまとめます。
ヤンマーの事例は、キャラクター戦略がBtoB企業にも有効であることを証明しています。ヤンマーが65年守り続けた「双子」「ヤン坊・マー坊」という核を明確にしながら、デザインを柔軟に時代適応させる発想は、あらゆる企業に適用できる原則です。
そして何より、キャラクターは「育て続ける」資産です。一発のバズを狙うのではなく、地道なプロセスこそが持続的なブランド価値を生み出します。
今あるキャラクターの資産価値を見直し、またはゼロからでも育て始めてブランドの資産を作っていきましょう。
株式会社NOKID(ノーキッド)はショートアニメ/アニメーションCMの企画・制作・SNSアカウント運用・プロモーションを得意とする東京の企画・制作会社です。キャラクターIPの開発・企画立案・制作からプロモーション企画立案・実施まで話題性を意識したサービス提供が可能です。

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NOKID編集部
1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。