NOKID編集部
1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。
キャラクターを人気にするには「グッズを作って売るしかない」と思っていませんか?そのために大量生産や在庫リスクに悩み、イベントを重ねても思ったほど収益につながらず疲弊してしまう…。そんな経験をしている方も多いはずです。
じつは「商品を売ること=収益の中心」という思い込みが事業の成長を止めています。ファンの消費は単なる物欲ではなく「応援したい」という気持ちから生まれており、その気持ちを活かせなければ、せっかくの人気IPも一時的な流行で終わってしまうのです。
なぜ成果が出にくいのか?それは、グッズ販売という目先の行為に集中しすぎて、ファンの熱量を資産化できていないからです。つまり、ファンにとっての価値は「物」ではなく「推しキャラとの関係」なのに、そこに寄り添わない仕組みだからです。
サンリオは、物販やテーマパークを“ファン化の入口”にし、その後に高利益のライセンス展開で収益を最大化しています。実際にサンリオはライセンス事業で売上の半分以上を生んでいます。つまり「物を作って売る発想から抜け出し、ファンとの関係を収益化する」ことが重要だということです。
そして特筆すべきは、もっとも人気のハローキティだけが収益を支えているわけではないという事実を、サンリオ側の工夫によって実現していることです。
そこで今回は、サンリオのIP収益はどのように生まれ、安定化させているのか?ハローキティの依存度を下げた理由とあわせて読み解きます。
IPによって収益を生み出そうとする場合は「IPグッズを作って売る」ことをまず考えるかもしれません。しかし、サンリオはまったく違う発想で事業を組み立てています。商品を作って売ることではなく、権利を貸すことで圧倒的な利益を生み出しているのです。
サンリオの決算資料を確認すると、2025年3月期の物販事業の営業利益率は約16%です。一方、ライセンス事業の営業利益率は約85%という驚異的な数字を記録しています。この違いは、事業の性質が根本的に異なるからです。
物販では商品を作り、仕入れ、保管し、販売しなければなりません。ライセンス事業では「キャラクターを使って良いですよ」という許可を与えるだけで収益が発生します。(正確にはキャラの価値向上や権利保護などの違う面での難しさがありますが…)
もし、他社がハローキティのIPを借りてマグカップを作る場合、マグカップメーカーがサンリオに使用料を支払い、製造から販売まですべて行います。サンリオ側は、許可を与えるだけで売上の一部を受け取れるのです。もちろん、ここまでに至ること自体が容易ではないため楽に儲かるとは言えません。
サンリオの収益構造を見てわかる通り、ライセンス事業で利益が生まれ、物販やテーマパーク事業はIPの価値を上げるためのものであることがわかります。
つまり、IPを人気にしたあとは「作って売る」発想にこだわらず「権利を貸す」発想にも目を向けることが大切なのです。
参考:第66期(2026年3⽉期) 第1四半期決算説明資料 - サンリオ
「上手くいったものに集中する」のは自然な考えですが、サンリオは意図的に自社でもっとも売れているキャラクターへの依存度を下げました。一見すると不合理に見えるこの戦略には、長期的な成長を見据えた深い理由があります。
サンリオは、もっとも成功しているハローキティへの依存度を下げたことで安定感を作りました。2015年3月期には、ハローキティによる収益が物販・ライセンス事業の約70%を占めていました。一見すると大成功に見えますが、同時に大きなリスクを抱えていました。
もしハローキティの人気が急に下がったら、会社全体が大きなダメージを受けてしまいます。なにより、ハローキティに興味のない人は、サンリオの商品を買うことがありません。(顧客層が限定されてしまうため)
例えば、会社の売上の半分以上を1つの取引先に依存している状況をイメージしてみてください。その取引先との契約が切れたら、会社の経営が成り立たなくなってしまいます。
つまり、成功している商品だからといって、それに頼りすぎると、長期的には会社全体が不安定になるリスクがあるということです。人気にすることと、人気が落ちても良い状態を作ることの両面から考えるようにしましょう。
参考:第65期(2025年3月期)決算説明資料 - サンリオ
サンリオは、ハローキティに依存しないために、同時に他のキャラクターの認知度アップにも注力したことで安定収益を生んでいます。
サンリオは2020年の「第二の創業」以降、マルチキャラクター戦略を本格化しました。重要なのは、ハローキティの売上を減らすのではなく、他のキャラクターを成長させることで全体のパイを拡大した点です。
2014年から2014年までの10年間でハローキティの構成比は30.4%まで下がりましたが、2020年の「第二の創業」を掲げた以降の収益は毎年成長を続けています。
このように、主力であったハローキティの売上を維持しつつ新しいキャラクター群が全体の成長を押し上げた結果、依存を減らしたということです。
サンリオは、世界各地で人気のキャラクターが異なることをサンリオキャラクター大賞などで公開しています。こうした情報をもとに、販売やプロモーションを地域ごとに最適化しています。
例えば、2025年の結果を見ると、中国などのアジアでは日本に近いランキングですが、アメリカはチョコキャットが2位となっており地域ごとに少し異なっていることが分かります。
Redditの声でも「アメリカではハローキティしか見なかったが、アジアではクロミとシナモロールが至る所にある」という体験談があり、各キャラクターの露出量の違いがはっきりと示されています。
つまり、世界戦略では「同じキャラを全世界に押す」のではなく、「地域に合わせて押すキャラを変える」ことが重要なのです。
常に新しいファン層を獲得したり、話題になるには新たなキャラクターを生み出すことが重要ですが、どんどん増えてしまうと管理の労力は計り知れません。サンリオでは、450を超えるIPがありますが、人気のないキャラクターを積極的に引退(キャラの新陳代謝)させることでキャラクター管理を行っています。
これをサンリオでは「おでかけ」制度と呼んでおり、人気の低下したキャラクターがサンリオピューロランドでの活動を一時休止します。キャラクターを作って終わりではなく、運用するという発想です。
一見すると冷たい制度に思えますが、限られたリソース(資金、時間、労力)を人気キャラクターに集中させることで、全体の効率を上げているのです。
つまり、成功していないものを早めに見切ることで、成功する可能性の高いものに集中投資でき、全体の成果を最大化するということです。
周年イベントは年間の話題作りの起点です。サンリオは周年の前後に他のイベントや新商品を配置し、話題が途切れないようにしています。
例えば、ハローキティ50周年イベントの他にも、キャラクター大賞やSNSによるオリジナルコンテンツの発信、カフェなどのリアル体験の場まで活用し、意図的に話題をリレーしています。
また、上図の通り、クロミの20周年やマイメロディの50周年を記念したイベントでは、関連する映像作品や施設での接点作りまでしっかりと行っています。
こうした話題の連鎖を意図的に作ることも、ファンの熱が年間を通して冷めないようにする工夫だと言えます。
多くの会社は「良い商品を作れば売れる」と考えています。しかし、サンリオは商品を売ることを最終目標にしていません。商品は「ファンを作るための手段」であり、本当の目的は「ライセンス料で稼ぐこと」なのです。
利益率の低い事業にも、全体に影響する別の役割を持つ場合もあるのです。サンリオの物販事業とテーマパーク事業は、単体で見ると収益性は高くありません。しかし、これらは「ファンを作るための接点=IP価値を上げる」という重要な役割を果たしています。
直営店やテーマパークで実際にキャラクターに触れることで、お客さんはファンになります。ファンになった人は、他社が作るライセンス商品も積極的に買うようになります。
例えば、携帯電話の販売店が、端末の販売では利益が少なくても、月額料金で長期間稼げるのと同じ仕組みです。最初の接点では利益が少なくても、その後の継続的な関係で大きな利益を生み出せるのです。
つまり、目先の利益は少なくても、将来の大きな利益のために必要な投資を続けることが、長期的な成功につながります。
商品の機能や品質よりも、「体験」や「思い出」の方が高い価値を生み出します。サンリオピューロランドやハーモニーランドでは、キャラクターとの直接的な体験ができることでIPへの入り口になるだけでなく、世界観へ引き込み価値を上げる役割を担っているのです。
握手をしたり、一緒に写真を撮ったり、ショーを見たりすることで、お客さんの心に強い印象を残します。この体験があることで、サンリオのキャラクターは単なる「絵」ではなく、「大切な友達」のような存在になります。友達の商品なら、多少高くても買いたくなるのが人間の心理です。
例えば、同じコーヒーでも、思い出の場所で飲んだコーヒーの方が美味しく感じられます。これと同じように、体験と結びついた商品は、より高い価値を持つようになります。
つまり、商品そのものではなく、商品に関連する体験や思い出を提供することで、より高い価値と愛着を生み出すことができます。
サンリオは、前述の事業によってIP価値を上げることでファンを増やし、ライセンス事業で高い収益性を実現している理想的な状態が作られています。
多くのファンがいるキャラクターなら、そのキャラクターを使った商品は売れやすくなります。だからこそ、メーカー各社はサンリオにお金を払ってでも、キャラクターライセンスを使いたがります。
このような仕組みとなっていることで、サンリオはライセンス事業で全体の売上の55%(2025年3月期)も生み出せるのです。
例えば、人気アーティストのコンサートチケットが高値で売れるのと同じです。人気があるほど、より高い価格をつけることができます。サンリオのキャラクターも、ファンが多いほど、より高いライセンス料を設定できます。
つまり、最初の投資でファンを作ってブランド価値を高めることで、最終的に収益性の高いビジネスモデルを構築することができるのです。
多くの企業は「商品が良ければ自然に売れる」と考えがちですが、サンリオの事例は違います。彼らはまず、入口の作り方そのものを戦略化しており、国内外で全く異なる方法を採用しています。この入口こそが、後のファン化や収益アップにつながる最初の仕掛けです。
一般的には「キャラクターはグッズで知る」と思われます。ですが日本のサンリオは、テーマパークやイベントを入口として活用しています。
日本のピューロランドやハーモニーランドでは、ショーやアトラクションを通じてキャラクターの世界観を体験できます。ピューロランドでのショーや限定グッズ、店頭イベントは、家族連れや学生にとって「キャラクターを体験する最初の接点」になっています。
来園者データでも安定した人数を記録しており、パーク内限定商品といった工夫でファンを喜ばせています。
さらに、サンリオはアニメのショート映像を通じて、キャラクターに個性や物語を与えています。
例えば、「シナモンアニメ」や「ぐでたま」のショートアニメは、キャラクターの性格を分かりやすく描き、視聴者が「自分の推し」として感情移入できる導線を作っています。
これはキャラクターを認知するところから一歩進んで、「キャラを応援したい」「グッズを集めたい」という行動意欲につながります。
関連記事:キャラクターを使ったSNS運用のメリットとは?成功例やコツを紹介
海外ではテーマパークのような直接的な体験拠点が少ないため、デジタル発見とコラボが入口になります。公式によると、海外のライセンス事業は、デジタル接点を通じた複数キャラクターの認知度向上が、コラボ商品でのライセンス使用を促進したようです。
例えば、クロミやシナモロールがTikTok上でトレンド入りし、そこからファンがグッズやコラボ商品を求める流れが起きました。
海外でも日本より少ないとはいえ、ポップアップイベントや展示を開催し、ファンに「キャラと一緒にいる感覚」を与えています。
つまり、海外市場では「偶然の発見」がファン獲得の起点になっており、TikTokやInstagramでの短尺動画や、海外ブランドとの限定コラボ商品によって「初めてキャラクターを知る瞬間」を生み出しているのです。
ここまでのポイントをまとめます。
サンリオから学べる要点は明確です。入口は国・地域の文脈によって設計し、体験・映像・グッズで「推し化」を深め、最後を最適な収益モデルに接続することが重要です。
日本は体験×直販で愛着を厚くし、海外は話題化×ライセンスで利益率を押し上げるような仕組みになっていることで、ファン化と収益化をバランス良く実現しているのです。
キャラクターを活用したPR、ブランドのイベント企画といったPR活動は、動画制作だけでなく数々のイベントの認知拡大を支援してきた我々NOKID(ノーキッド)なら、幅広いご提案とクリエイティブ制作が可能です。
アニメーションという表現方法の中にも、スライドに動きをつけたものから3DCGを活用したもの、セル画など多岐に渡るテイストがあります。
動画を制作する場合には、要望通りに動画を制作することだけでは効果を発揮しないことが多くあります。NOKIDでは、動画の活用目的に沿った構成や表現を計画しております。
例えば、TikTokであれば認知に適したアルゴリズムになっておりユーザーが次々と動画をスワイプして観ていきます。そのため、冒頭の2〜3秒で注意を引くためのアイデア、PRに繋げるためにどのような情報を発信すべきかといった"ビジネス視点とクリエイティブ視点"のバランスを意識しております。
「初めてのアニメーション制作」「PRまで考慮した映像」をご検討の方はお気軽にご相談ください。
・キャラクターをマーケティングで活用するには?アニメコラボCMの事例や戦略を紹介
・キャラクターを活用するメリットとは?デメリットや効果も解説
・【顧客拡大】キャラクター活用のリブランディング戦略とは?失敗例も紹介
・【キャラ活用】IPビジネスがアニメ事業のチャンスに!自社IPの可能性とは?
・海外でアニメを展開するやり方は?失敗原因・リスクを事例にもとづいて解説
・【企業向け】VTuberの始め方は?新規プロジェクトを成功させるポイントを紹介
・キャラクターを用いたコラボ戦略と活用事例から成功の秘訣を探る
・ブランドのファンを増やすオリジナルグッズ・ノベルティとは?具体的な効果や制作方法を紹介
・にじさんじのコラボ商品は何がある?他社事例を分析してまとめてみた
・なぜ企業同士のコラボ事業が注目されるのか?参考事例までPR会社が解説
・【IPコラボ商品・キャンペーン】参考になる事例から学ぶ!成功させるポイントを紹介
・【IPコラボ】学習教材×マンガが売れた秘密とは?活用事例・ポイントも紹介
・キャラクターライセンスとは?他社IPを活用してブランド価値を高める方法を紹介
NOKID編集部
1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。