NOKID編集部
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30年という長期にわたって日本で愛され続けている「名探偵コナン」ですが、海外では日本ほどの人気があるわけではありません。正直に言うと、名探偵コナンが海外で苦戦しているという話を初めて知ったとき、筆者は少し驚きました。
日本では知らない人がいないほどの大人気作品であり、劇場版は毎年のように興行収入ランキング上位に入り、キャラクターグッズは世代を超えて売れ続けているからです。筆者自身も小学生の頃からずっと見てきた一人なので、「海外でも当たり前に人気だろう」と思っていました。
ですが実際に調べてみると、そこには予想以上に深い“ギャップ”が存在していました。
中国や韓国、台湾では日本のように愛され続けているのに対して、英語圏では不評ではないものの、日本ほどの人気はありません。「見た人は満足しているけど、そもそも見ている人が少ない」という状況なのです。
その大きな原因のひとつが、“1000話を超える長期シリーズ”であることだと筆者は感じました。日本では「長寿作品=信頼と実績」によって人気が累積していく傾向ですが、海外では「今から追いかけるには重すぎる」という心理的ハードルになってしまうのです。
さらに、文化や言語の壁によってストーリーや設定が伝わりにくいこともあり、筆者ですら理解に苦労している登場人物の多さや関係性となればハードルになるのも頷けます。
そこで今回は、アニメ「名探偵コナン」が海外では日本ほどの人気を得づらい理由を分析し、アニメの海外展開やキャラクターの人気獲得につながるヒントとなるよう紹介していきます。
日本と海外の人気アニメランキングについては「日本と海外のアニメ人気ランキングを比較!評価される作品の違いをプロが分析」もチェックしてみてください。
多くの人は「世界的人気アニメは、どこの国でも同じように愛される」と思っていますが、名探偵コナンを詳しく調べてみると、地域によって驚くほど違うことがわかりました。この違いこそが、海外展開の最重要ポイントを教えてくれるのです。
中国では1998年頃からテレビアニメの放送が開始され、なんと25年以上も継続しています。この数字だけでも驚きですが、さらに注目すべきは中国ファンの熱狂ぶりです。
具体的には、フィギュアの販促用動画が公開された際、キャラクターの扱いに対して中国ファンが抗議し、メーカー側が謝罪する事態にまで発展しています。
また、韓国や台湾でも同様の長期的人気があり、日本まで聖地巡礼に訪れるファンも珍しくありません。小学生の頃から見続けて大人になったファンが、今度は自分の子供と一緒に見るという「世代を超えた愛され方」も実現しています。
国土交通省「第1章 各アニメ作家の海外における評価等」では、以下のような結果も出ています。
・特に韓国、台湾(繁体字)、中国(簡体字)のサイトにおいて、「名探偵コナン」の検索数が、他と比べて多い
引用:第1章 各アニメ作家の海外における評価等 - 国土交通省
なぜアジア圏でこれほど根付いているのでしょうか?理由はさまざまだとしても、日本の学校制度、家族関係、社会構造などが、アジア圏の視聴者にとって理解しやすいことが他エリアよりも人気の要因だと考えられます。
出典:中国本土映画興行週間ランキング(2024.8.26-2024.9.1) - CRI online
一方、英語圏では状況が大きく異なります。世界最大のアニメデータベース「MyAnimeList」の人気ランキングでは、劇場版が243位(2025年6月時点)となっています。
TV版にいたっては435位(2025年6月時点)となり、日本での人気を考慮すると順位の低さを感じます。
ただし、既存の視聴者からのレビュー点数は8点を超えており、作品を知っている層からは高い評価を得ているのです。これは「作品を観てもらえれば十分な魅力がある=作品を観ようと思ってもらうきっかけが不足している」ことを明確に表していると考えることもできます。
つまり、名探偵コナンの「作品」としての魅力は欧米でも確実に認められているのです。
名探偵コナンが海外で公開される際にハードルとなるのは、設定が複雑であるため理解してもらうまで魅力が伝わりづらい点(日本文化が多く反映されている点)です。
具体的には、アジア圏と欧米では設定の理解度の違いがあります。日本の地理(都道府県名、有名な建物)、建築様式(和室の構造、神社の配置)、社会制度(学校のシステム、警察の階級)などへの理解が前提となっているため、魅力が伝わるまでのハードルになります。
また、文化的な違いで最初にあげられるのは「言語レベル」です。そのため、ぱっと見で分かりづらい部分があると良さを知ってもらう前に離脱される原因となってしまいます。
例えば、名探偵コナンには日本語のダジャレや漢字を使ったトリックが多数あります。「犯人の名前を並び替えると動機がわかる」「漢字の部首を組み合わせてメッセージを作る」といった謎解きは、翻訳が困難なため、英語版では別のトリックに変更、もしくは説明が追加されることになります。
思考レベルの違いも考慮すべき点かもしれませんが、まずは上述した言語の壁や設定についてを乗り越える必要があるでしょう。
さまざまな日本アニメに関する学術研究資料を調査してみると、配信エリアによって人気傾向が変わることが明らかになっています。個人的にも、日本以上に人気エリアもあれば、ローカライズや文化的な問題、登場人物の関係を理解する問題などで人気になりづらいエリアもあるという印象があります。
西洋市場の特徴として「文化への適応が必要」「アクション要素と普遍的テーマがより受け入れられやすい」「文化的に特殊な内容は障壁に直面しやすい」という傾向があります。
対してアジア市場では「文化的に近いため適応の必要性が少ない」「共通の文化的価値観により魔法少女・ファミリー向け作品が成功しやすい」という特徴があります。
地域別で評価が変わることは、学術研究が示す通り当てはまると考えられます。つまり、コナンの事例は地域差において考慮すべきポイントを見つけるヒントなのです。
「30年続く人気シリーズは海外でも強い」と思うのは自然ですが、反対に長期シリーズであることが海外では「見始めにくい理由」になってしまうケースがあります。
名探偵コナンの1000話を超えるボリュームは、国内では「豊富なコンテンツ」ですが、海外では「参入の壁」として新規層から興味を持たれづらくする原因にもなってしまうのです。
日本では「長く続いている=信頼できる・価値がある」と考えられます。しかし海外、特に欧米ではまったく違う受け取られ方をすることがあります。
1000話を超えるコンテンツを前にした海外の新規視聴者は、「すべて見なければいけないのか」「途中から見ても理解できるのか」「時間的に現実的なのか」という不安を抱きます。
これは、途中から参加する学校のクラスのようなものです。みんなが1年間一緒に過ごした後に転校してきた子供は、既にできている友達グループや、これまでの出来事を知らないため、「輪に入りにくい」と感じるでしょう。
実際に海外の口コミサイト(reddit・Quora)を見ると、この問題がはっきりと現れています。
「Detective Conan looks interesting, but where should I start?」(名探偵コナンは面白そうだけど、どこから始めればいいの?)といった質問が非常に多く投稿されています。これは単なる疑問ではなく、新規ファンにとっての深刻な「参入障壁」なのです。
さらに問題なのは、日本と比べてアニメとの接点が少ないだけでなく、さまざまな人たちの意見が飛び交っており明確な指針がないことも挙げられます。
具体的には、熱心なファンが「このエピソードから見るべき」「重要エピソードのリストを作ったから参考にして」「黒の組織関連だけ見れば大丈夫」など、バラバラなアドバイスをすることです。これが逆に混乱を招き、観るのを諦めてしまう人を増やすことになっている可能性もあります。
他にも、ドイツでは実際に吹き替え版が330話あたりで一度中断され、数年後に再開されたという事例があることから、長期シリーズの継続的な制作・配信の困難さもあります。
一方、海外で大きな話題となった『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』は、新規参入のしやすさという点で優れた設計になっています。
「進撃の巨人」は全世界でシリーズ累計発行部数1億2,000万部を超え、18の言語に翻訳され180カ国以上で出版されています。世界最大のアニメ・マンガデータベース「MyAnimeList」では2025年6月時点の人気度はトップを獲得、ランキングでは110位となっています。
同作は約90話(編集時期により93話まで)で完結しており、明確な始まりと終わりがあります。「鬼滅の刃」も、映画を含めて比較的短期間で物語が完結します。どちらも名探偵コナンよりは「ストーリー全体を把握しやすい」という意味で違いがあります。
また、これらの作品は各シーズンに明確な区切りがあり「とりあえず1シーズン見てみよう」という気軽な参入が可能です。欧米の視聴者が好む「完結性」を持った構成になっているのです。
名探偵コナンも「◯◯編」というキャラクターを中心にしたものを公開していますが、基本的には日常生活の一部としての立ち位置となっており、日本向けに最適化されている印象です。
しかし、長期シリーズには確実にメリットもあります。豊富なキャラクター、深い世界観、多様なストーリーなど、短期作品にはない魅力があります。
コナンの成功地域を見ると、改善のヒントが見えてきます。アジア圏で成功している理由の一つは、「どのエピソードから見始めても楽しめる1話完結型」の要素があることです。
海外展開では、この特徴を活かして「テーマごとに数話完結シリーズ」として再構成したり、キャラクター関係図などの大枠のストーリーを理解できる要素の追加などが考えられるでしょう。
このように、作品が長期シリーズなら、「継続性の価値」に触れるための入口を工夫することが海外展開のカギとなります。
シャーロック・ホームズやアガサ・クリスティが世界中で愛されているので、「推理ものは文化を問わない」と考えがちです。しかし、推理の「やり方」には文化的な違いがあることがわかります。この違いを理解しないと、優秀な推理作品でも海外で本来の魅力が伝わらないのです。
欧米の推理作品を見てみると、プロファイリングなどの活用が進んでいることからも「論理的推論」を重視=証拠を積み上げて論理的に犯人を特定するプロセスに重点が置かれます。
例えば、シャーロック・ホームズの「観察→推論→結論」という明確な流れが典型例です。一方、日本の推理作品は「人間関係や感情面」を重視する傾向があります。犯人の動機、被害者との関係性、家族の絆などに多くの時間が割かれます。
名探偵コナンでも、考え抜かれたトリックの話はあるものの「なぜ犯罪に至ったのか」というヒューマンドラマに重点が置かれています。
同じ「料理」でも調理法がまったく違うように、同じジャンルでも、重視するものや展開、好みはエリアごとに変わるということです。
こうしたジャンルに対する先入観も考慮し、リーチする地域の常識にマッチする部分を打ち出していくという視点でも考えてみてください。
関連記事:テレビ離れなのに「ヒューマンドラマ」が求められている?縦型ショート動画で人気にする方法
文化的な受け取り方の違いは、実際の配信停止という形で現れることもあります。
インドネシアでは、名探偵コナンが2008年に放送開始されましたが2年後に中止となっています。理由は「毎回殺人事件が起きること、殺人の方法が紹介されることなどが、子供に良い影響を与えない」というものでした。
もちろん名探偵コナンだけに限った話ではなく、2010年からは、KPI (インドネシア報道委員会) によって国外のテレビ番組が厳選されるようになっている背景もあります。
これは単なる暴力的表現の問題と考えるより、推理作品に対する受け取り方の違いを示していると言えるかもしれません。同じ内容でも、ある文化では教育的・娯楽的と受け取られ、別の文化では不適切と判断されるのです。
文化の違いによる設定の理解度という視点だけでなく、印象についても考えるようにしましょう。
参考:日本のどんなコンテンツが視聴されている?FUN! JAPANオンライン調査結果を発表 - Fun Japan Communications
名探偵コナンの海外展開は公開エリアによって異なる人気となっていますが、成功している部分から学べることは多くあります。それぞれ見ていきましょう。
コナンの海外展開で特に効果的なのが、劇場版を中核とした年次マーケティング戦略です。
毎年4月の劇場版公開を「お祭り」として位置づけ、その前後3ヶ月間でテレビシリーズの配信促進、関連グッズの展開、ファンイベントの開催を連携させています。これにより、年間を通じた継続的な話題創出と収益確保を実現しています。
2021年の『緋色の弾丸』では22カ国同時公開を実現し、2024年の『100万ドルの五稜星』では中国で51億円という大きな成功を収めました。
この成功の背景には、劇場版公開に合わせたNetflixでの関連エピソード配信、SNSでのキャンペーン展開、現地メディアとの連携プロモーションがあります。
近年のコナンの海外展開では、安室透や赤井秀一といった特定キャラクターの人気を戦略的に活用しています。
これらのキャラクターは特に女性ファンから高い支持を得ており、SNSでのファンアート創作や二次創作の活性化に大きく貢献しています。実際に、国内では安室や赤井を前面に打ち出してからの興行収入が以前よりも大幅に伸びています。
海外でもキャラクターは作品への入口となりやすいため、言語や文化の壁を越えやすいビジュアル要素を活用することで、より多くの海外ファンとの接点を作ることは効果的でしょう。
キャラクターグッズの販売、キャラクターにフォーカスした特別エピソードの配信、キャラクター投票企画の実施などを通じて、ファンとの継続的なエンゲージメントを維持しています。
コナンはNetflix、Huluなどの主要な配信プラットフォームとの戦略的連携を積極的に行っています。
単純な作品提供にとどまらず、劇場版公開に合わせた関連エピソードの配信、新規ファン向けの厳選エピソード配信、プラットフォーム限定コンテンツの提供などを通じて、配信パートナーとWin-Winの関係を構築しています。
特に効果的なのは、過去作品を活用した「入門ガイド」的なコンテンツ配信です。1000話以上あるシリーズの中から、新規ファンが楽しめるエピソードを厳選して紹介することで、参入障壁を下げています。
30年という長期にわたって愛され続けるコンテンツは、設定を理解してもらい、視聴してもらうことができれば海外でも十分に人気を獲得できると言えます。そのためにも、視聴者との継続的な設定や意識付けといった戦略的な配信にも目を向け、話題であることを印象付ける視点も持っておきましょう。
関連記事:なぜアニメ「名探偵コナン」は毎年話題?宣伝方法とヒットの秘訣を分析してみた
ここまでのポイントをまとめます。
名探偵コナンの海外展開を分析することで見えてくるのは、「世界に一つの正解」は存在せず、公開エリアごとの文化・習慣・受け入れられ方を丁寧に見極めたローカル戦略こそがグローバル成功の要だということです。
アジアでの成功は文化的な共感によって支えられ、欧米では“見やすさ”と“共感のとれる物語設計”が重要になります。どんな作品にも潜在力はありますが、それを引き出すのは「地域特性に応じた戦略」と「長期的なファンとの関係作り」です。
30年という長期にわたって愛され続けるコンテンツは、適切な戦略さえあれば必ず海外でも花開くと個人的には感じます。コナンの海外展開から学んだ知見を活かし、次世代のグローバルコンテンツ成功事例を創造していきましょう。
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