NOKID編集部
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ポッキーを知らない人は、まずいません。
プリッツも、ビスコも、アイスの実も、誰もが一度は口にしたことがあるはずです。グリコといえばお菓子。お菓子といえばグリコ。その図式を疑う人は、ほとんどいないでしょう。
ところが、グリコの決算書をめくっていくと、奇妙な事実に突き当たります。
この誰もが知っている看板商品の群れは、グリコが一番効率よく稼いでいる事業ではありません。利益を生む効率でいえば、ほとんどの人が名前すら聞いたことのない、ある地味な事業に大きく負けています。
ここで読み比べるのは、グリコのように「誰もが顔と名前を知っている」消費者向けの有名企業の決算書です。無名のBtoB企業ではなく、あえて知名度の高い会社だけを並べます。すると、生き残っている企業には2つの共通点が浮かび上がってきます。1つは、一番有名な商品で稼いでいないこと。もう1つは、稼ぎの大半を海外で上げていること。
「有名な顔と稼ぎ頭がズレている会社だけを選んだのでは」と思うかもしれません。その通りで、これは厳密な統計ではなく、有名企業に絞って見たときに繰り返し現れるパターンの紹介です。
ただ、だからこそIPの話にも効いてきます。IPもまた、知名度という顔で評価されがちな資産だからです。
この2つの法則は、いま多くの企業が頭を悩ませているIP活用やキャラクターコラボの世界に、そっくりそのまま当てはまります。有名なIPに乗れば成功する、という発想がなぜ空回りするのか。そして、これからのIP活用で何が生死を分けるのか。答えは、決算書の中に隠れています。
稼ぐ会社は、認知をつくる看板商品と、実際に利益を生む商品を、別々に持っています。グリコの稼ぎ頭は誰もが知るポッキーではなく、消費者が名前も知らない素材事業でした。同じ構造はIPにもあり、作品が顔としてファンを増やし、その後ろでグッズやコラボが稼ぎます。
まず、動かせない数字から見ていきましょう。
江崎グリコの2025年12月期第3四半期決算短信によれば、ポッキーやプリッツなどを含む栄養菓子事業は、9か月間の累計で売上442億円に対し営業利益22億円でした。利益率にして、およそ5パーセントです。
同じ決算書の中に、食品原料事業という地味なセグメントがあります。小麦たんぱくや加工デンプン、着色料といった、消費者が店頭で目にすることのない素材を企業に売る事業です。この事業は、売上99億円に対し営業利益16億円。利益率はおよそ17パーセントに達します。
並べてみると、その差は歴然としています。
ポッキーの4分の1以下の売上しかない無名の素材事業が、利益を生み出す効率では3倍以上も上回っています。看板商品は、稼ぐ効率という一点において、社内の地味な事業に完敗しているのです。
ここで誤解してほしくないのは、ポッキーが無駄だという話ではない、ということです。ポッキーには、食品原料事業には絶対にできない仕事があります。世の中に「グリコ」という名前と信頼を刻み込む仕事です。スーパーの棚で、コンビニのレジ横で、子どもの手の中で、ポッキーは毎日グリコの名前を世間に思い出させ続けています。
この認知をつくる仕事は、利益率では測れません。ポッキーは、自分が大きく稼ぐためではなく、グリコ全体が稼ぐための土台をつくるために存在しています。顔になる商品と、稼ぐ商品は、最初から仕事が違うのです。
役割の分離は、グリコだけの特殊事情ではありません。業種のまるで違う2社でも、安く売って人を集める商品と、その裏で稼ぐ商品が、きれいに分かれています。
会員制スーパーのコストコは、その典型です。店内には市場より明らかに安い商品が並び、粗利率は競合スーパーの半分以下だと指摘されています。それでもしっかり稼げる源泉が、年会費です。コストコの2022年8月期の年次報告書によれば、同期の営業利益は約78億ドル。これに対し会員費収入は42億ドルにのぼり、営業利益の半分以上に相当する金額が会費から生まれている計算になります。安く売る商品が人を呼び、会費が利益を生む。仕事は、きれいに分かれています。
サイバーエージェントのABEMAは、もっと極端です。無料のインターネットテレビとして始まったABEMAは、長らく巨額の赤字を抱えていました。2022年9月期のメディア事業は、売上1121億円に対し営業損失124億円。100億円を超える赤字です。なぜ続けられたのか。
派手なゲーム事業がある、と思うかもしれません。たしかに同じ期、ゲーム事業は営業利益605億円を稼ぎ、額だけ見れば最大です。
ただ、この事業は波が激しい。前期に『ウマ娘 プリティーダービー』が大ヒットした反動で、この額は前年比37.2パーセント減、前年の964億円から一気に縮んでいます。単一タイトルの当たり外れで、年ごとに大きく上下するのです。
その裏で、グループの土台を堅実に支えているのが広告事業です。同じ2022年9月期、インターネット広告事業は売上3,768億円で全社売上7,105億円の過半を占め、シェアを伸ばし続けています。AmebaブログやABEMAといった消費者向けサービスで蓄えた知名度と運用力が、この広告事業の足場になっています。顔をつくるBtoCのサービスが認知を生み、その後ろで広告事業が安定した稼ぎを積む。ゲームが跳ねた年はそこに大きな利益が乗りますが、屋台骨はあくまで広告です。ここでも、顔と稼ぎ頭の仕事は分かれています。
これらに共通するのは、最前線に立つものが大きく稼ごうとしていないことです。もし最前線が利益を取りに行けば、人を集める力が落ち、後ろで稼ぐ仕組みごと崩れてしまう。最前線が稼ぐのを我慢することで、後ろの層が大きく稼げる。これが、決算書が教える1つ目の法則です。
この1つ目の法則を、アニメやキャラクターといったIPに当てはめてみましょう。IPも、グリコと同じ構造でできています。
IPで認知をつくる役割を担うのは、ストーリーのある作品そのものです。アニメ、漫画、あるいはSNSで日々連載されるキャラクターの物語。これらがやっているのは、直接お金を稼ぐことではありません。見る人に「このキャラが好きだ」と感じてもらうことです。
読んだり見たりするうちに愛着がわき、名前を覚え、続きを心待ちにするようになる。この好意が、後で財布を開く動機になります。グリコでいえば、ポッキーにあたる部分です。それ自体は薄利でも、制作費で赤字でも構いません。
実際に大きく稼ぐのは、グッズやライセンス、企業コラボ、ゲームの課金といった収益化層です。グリコの食品原料事業にあたります。ぬいぐるみが売れるのも、コンビニのコラボ商品が飛ぶように売れるのも、その前にファンがキャラクターを好きになっているからです。誰も知らない、まだ好きになる時間もなかったキャラクターのグッズは、どれだけ精巧に作っても棚で売れ残ります。
整理すると、こうなります。
順番は、そう簡単には逆にできません。まず作品で好きになってもらい、その後でグッズが売れる。グッズから始めて好きになってもらうことは、よほどの工夫がなければできないのです。
ここに、多くの企業がコラボ相手を選ぶときの落とし穴があります。
相手を選ぶとき、多くの企業は知名度を基準にします。フォロワーが多い、再生数が多い、原作が売れている。要するに有名かどうかで判断します。けれどもこれは、グリコの稼ぐ力をポッキーの売上で測ろうとするのと同じです。
知名度は、作品という顔の側の数字です。どれだけ多くの人がそのIPを知っているかの目安にはなります。しかし、知っていることと、お金を払うほど好きでいることは違います。広く知られていても、自社のグッズを買うほどの熱量があるとは限りません。知名度と、購買に結びつく熱量は、別の指標なのです。
一番有名なポッキーが一番稼ぐ事業ではなかったように、一番バズった作品が、一番回収できるIPとは限りません。
生き残る高収益企業ほど、稼ぎの軸足を国内から海外へ移しています。ソニーもキッコーマンも、国内の顔とは裏腹に利益の大半を海外で上げていました。IPは言葉や文化の壁を越えやすい資産で、アニメの海外売上はすでに国内を上回っています。
なぜ、海外なのか。理由は単純です。国内市場が、人口減少とともに縮んでいくからです。国内だけで戦えば、市場が縮むぶん、売上も縮みます。だからこそ、稼ぎ続ける企業は早くから稼ぎの場を国外に移してきました。
たとえばソニーは、いまでこそゲームや音楽で世界的に知られますが、出発点はトランジスタラジオを国内で売る町工場でした。そこから半世紀以上をかけて、稼ぎの軸足を国内から海外へと移してきました。2025年度第2四半期の地域別売上を見ると、日本国内はおよそ1割にとどまり、残りの9割近くを海外が占めています。ゲーム、音楽、映画、半導体。主力はいずれも、稼ぎの大半を日本の外で上げる構造になっています。
醤油のキッコーマンは、もっと象徴的です。日本の食卓の調味料という国内向けの顔とは裏腹に、実際の稼ぎ場は完全に海外にあります。キッコーマンが海外マーケティングを始めたのは1957年。当初は現地の人が醤油を「茶色の液体」と不気味がり、販売に苦戦しました。
それでも数十年をかけて市場を耕した結果、2026年3月期は売上収益7,455億円・事業利益795億円のいずれも海外比率が高い構成になっています。あるビジネス分析では、国内食品事業の営業利益率より海外食品事業のそれが大きく上回るとも指摘されており、同じ醤油を売っても稼ぐ効率は海外のほうが高いとみられます。
どちらも、国内で名前を知られた顔を持ちながら、稼ぎの大半は日本の外で上げています。海外で稼げる構造を持っているかどうかが、長期的な生き残りを左右する。これは精神論ではなく、決算書に表れている事実です。
ただし、すべての商品が同じように海外へ出られるわけではありません。
たとえばお菓子には、物流コスト、各国の関税、そして味の好みの違いという壁があります。日本でヒットした味が、そのまま海外で受け入れられるとは限りません。海外で稼ぐには、現地生産や味の現地化といった重い投資が必要になります。
ここで効いてくるのが、商品ごとの言葉や文化の壁の越えやすさです。壁が低い資産を持っている企業ほど、海外という稼ぎ場へ素早く移れます。そしてこの観点で、いま最も壁が低い資産の1つが、IPなのです。
2つ目の法則も、IPに当てはめてみましょう。稼ぐ会社は海外で稼ぐ。そしてIPは、言葉や文化の壁を越えやすい資産でした。この2つが重なった結果が、いまアニメ産業で起きています。
日本動画協会が2025年に発表した「アニメ産業レポート2025」の速報値によれば、2024年の日本のアニメ産業市場は3兆8,407億円と過去最高を更新しました。その内訳を見ると、国内市場が1兆6,705億円だったのに対し、海外市場は2兆1,702億円。すでに海外が国内を上回り、市場全体のおよそ56パーセントを海外が占めています。しかも前年からの伸びは、国内の2.8パーセント増に対し、海外は26パーセント増。差は年々開いています。
お菓子が関税や味の違いに阻まれる場所へ、アニメは作品そのものを先に届けられます。日本のアニメが、最も伸びている稼ぎ場へすでに到達しているのです。
注目すべきは、その海外売上の中身です。
同協会は、市場拡大の中身が配信権だけでなく、劇場上映やグッズ、イベントなどを含む包括的な契約によるものだと説明しています。アニメを見て好きになった海外のファンが、配信を契約し、映画館に足を運び、グッズを買う。ここでも、作品で好きになってもらい、その後ろからグッズやイベントの売上を回収する、という順番が働いています。
二層構造と海外という2つの法則が、ここで1つに重なります。作品が海を越えてファンをつくり、収益化層がその後ろから稼ぐ。海外で大半を稼ぐソニーが、ゲームやアニメ、音楽といったIP事業を主力に据えているのも、同じ流れの中にあります。
IP選びで最後に効くのは、動くタイミングです。有名になりきったIPは高くつき他社に埋もれる一方、熱量が高まりつつある段階で押さえれば、安く、競合なしに、最も伸びる市場を取れます。
2つの法則をIPに当てはめると、最後に残る変数は、いつ動くかです。どの層が稼ぎ、どこで稼ぐかはわかりました。残るのは、そのIPにいつ張るか。そして決算が示した構造をたどると、答えは有名になりきる前になります。
誰の目にも有名なIPは、すでに認知という看板が完成しています。完成した看板には、当然ながら高い値札がつきます。ある業界の解説では、有力IPのライセンス料率は8〜10パーセント程度とされ、トップ層はさらに高くなると言われています。枠を取り合う相手も多く、条件は買い手に厳しくなりがちです。
しかも、みんなが知っているIPに乗ると、他社のコラボに埋もれます。だから差別化のために、わざわざ手間をかけることになります。たとえばyutoriが運営するブランド9090は、人気キャラクター「ちいかわ」とのコラボで、専用のオリジナルビジュアル「小麦ギャル」を新たに用意しました。有名IPをそのまま使うだけでは他と差がつかないため、コラボ専用のオリジナルを作り込んだのです。看板が完成しているIPほど、乗るのに高くつき、しかも埋もれやすい。
逆に、まだ世間が有名と認識する前のIPなら、安く、競合に邪魔されず押さえられます。問題は、そのIPが本当に稼ぎにつながるのかを、どう見極めるかです。
手がかりは、ファンが財布を開く瞬間にあります。SNS発で人気を広げたちいかわがくら寿司とコラボした際、2024年3月のくら寿司の既存店売上高は対前年123パーセント、つまり23パーセント増を記録しました。客数だけでなく客単価も上がっており、ファンが実際に店に足を運び、財布を開いた様子がうかがえます。
これは有名だから起きたのではありません。SNSで毎日ちいかわを見て好きになった人たちが、コラボをきっかけに店へ向かった結果です。見るべきは、世間がそのIPを知っているかどうかではなく、知っている人がどれだけ深く好きになっているか。その熱量が高いIPを、まだ値札が上がる前に押さえられるかどうかが、勝負を分けます。
決算書が教えてくれた2つの法則を、もう一度振り返ります。1つ目は、一番有名な顔が一番稼ぐわけではないこと。ポッキーも、コストコの安売り商品も、ABEMAの無料番組も、稼ぐ仕事は別の層が引き受けていました。2つ目は、稼ぐ会社は海外で稼いでいること。ソニーもキッコーマンも、国内の顔とは裏腹に、利益の大半を海外から上げていました。
IPは、この2つがそのまま当てはまる資産です。作品が顔をつくってグッズが稼ぎ、その稼ぎ場はすでに海外へ移っている。だから選ぶときの基準も変わります。見るべきは、どれだけ深く好かれ、その好意がどれだけ素直に購買へ変わり、それを海外まで伸ばせるか。これが冒頭で挙げた、感情が売上に変わる効率です。
アニメの海外売上が国内を超えた今、国内の知名度だけで選んだIPは、最も伸びている市場を取り逃します。逆に、ファンの熱量が高まりつつあり、海外でも売れるIPを、まだ世間が有名と認識する前に押さえられれば、安く、競合に邪魔されず、最も伸びる市場で稼ぐ準備ができます。
これは運の問題ではありません。どの層を見て、どの順番で、どこまで届く形で動くか。決算書はずっと前から、その答えを教えてくれていました。

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株式会社NOKID(ノーキッド)はショートアニメ/アニメーションCMの企画・制作・SNSアカウント運用・プロモーションを得意とする東京の企画・制作会社です。キャラクターIPの開発・企画立案・制作からプロモーション企画立案・実施まで話題性を意識したサービス提供が可能です。


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1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。