NOKID編集部
キャラクターIPの専門メディア NOKID Lab の編集部です。アニメーションとキャラクター制作を手がける株式会社NOKIDの知見をもとに、IPの起用事例やコラボ・ライセンスの実務、業界の動きを解説しています。



IPとブランドがコラボしたリリースは数多く出されますが、なぜその人(IP)を選んだのかを書きません。何と比べたのか、どの条件で社内を通ったのか。どれも公開の対象ではないからです。
ただし、企業が必ず書くものが1つあります。それが商品名と企画名です。名前だけは、書かないという選択肢はないからです。
だからこそ、企業がつけたコラボ商品の名前を並べてみると、コラボ相手を選んだ理由が見えてきます。宝鐘マリンをめぐる13件の発表から名前だけを抜き出すと、残ったのは3つでした。三十路、マリン、寿がきや。
どれも海賊船長という世界観の中心から外れていて、本体から切り離しても意味が残る言葉です。そして中心にある設定を商品名にした企業は、13件を通して1社もありませんでした。
企業の発表から商品名と企画名だけを抜き出すと、三十路、マリン、寿がきやの3つが残ります。いずれも海賊船長という世界観の中心からは外れた言葉で、本体から切り離しても意味が通ります。企業が出した発表13件を並べて確かめられたのは、この対応でした。

左が商品名になった3語、右がならなかった言葉です。右は13件を通して0社でした。
宝鐘マリンとブランドやサービスのIPコラボ商品で発表のあった3件を例に挙げてみましょう。
『PUBG MOBILE』の発表には「宝鐘マリン(三十路衣装)セット」とあります。通常衣装とは別枠の課金アイテムとして実装されたものです。
横浜マリンタワーの発表には、同じ「マリン」という名前であることとあります。企画の理由として、リリース本文に書かれた一行です。
セブン‐イレブンの発表には、寿がきやへのラーメン愛とあります。監修カップめんの開発が、そこを起点にしていると説明されています。
3社に共通点はありません。ゲームを配信する会社、観光施設を運営する会社、コンビニエンスストアを展開する会社。業種も、扱う商材も、想定している客層も違います。企画を立てた担当者どうしが相談した形跡もない。それぞれが自分の商売の都合で、自分の商品につける名前を決めています。
それなのに、3行を並べると同じ性質の言葉が残りました。
三十路。マリン。寿がきや。ここで引っかかるのは、むしろ無いもののほうです。海賊船長という肩書きそのものを商品名にした企業は、ひとつもありませんでした。
なぜ海賊船長は選ばれなかったのか。作り込みが足りないから、ではありません。
宝鐘マリンの世界観の中心にあるのは、海賊船を買うことを目標に陸で活動している海賊船長という肩書きです。これは公式のプロフィールに書かれた、記事1本ぶんの分量がある設定です。むしろ、いちばん手をかけられている部分だと言っていい。
問題は密度ではなく、その言葉が単体で立てるかどうかにあります。海賊船長という言葉だけを取り出して商品名に載せると、それが誰のことなのか分からなくなります。世界観の中心にあるものは、本体と結びついているからこそ中心なので、切り離すと意味が消えてしまう。
3つの言葉は逆です。三十路は、それだけで多くの人に関係する言葉です。マリンは、横浜に実在する建物の名前と一致しています。寿がきやは、愛知県の食品ブランドの名前です。どれも世界観の外側にも足場を持っているので、切り離しても立っていられます。
試しに、この3語を知らない人に見せたところを考えてみます。三十路と言えば年齢の話だと伝わります。マリンと言えば海の連想が働きます。寿がきやと言えば、東海地方の人ならラーメンの店を思い浮かべます。どれも、宝鐘マリンをまったく知らなくても意味が届く。海賊船長だけが、それをやると意味が届かないのです。
こうした「本体から切り離しても意味が残る言葉」は、後から誰かが見つけたものではありませんでした。運営の側が、最初から分けた形で置いています。公式のタレントページ(英語版)には、世界観設定やプロフィールとは別に「Catchphrases / Memes」という項目が独立して並んでいて、口癖やミームが14項目、それぞれに本人による由来の説明つきで載っています。
世界観をひとまとまりで出すと、外の人はまとめてしか扱えません。分かれていれば、必要な言葉だけを持っていけます。
企業が実際に持っていったのも、まとまりではなく、切り離せる言葉のほうでした。
ここで一度、対象そのものを確かめておきます。
宝鐘マリンは、カバー株式会社が運営するホロライブの3期生として、2019年8月11日に初配信を行ったバーチャルタレントです。公式プロフィールには、海賊船を買うことを目標に陸で活動しているという世界観設定が示されています。年齢の設定は大体17歳とされています。
登録者数は、2025年11月11日時点でYouTubeが約425万人、公式Xが約197万人です。いずれもセブン‐イレブンが2025年11月に出したリリースに記載された数字で、同社はこれをVTuber界で世界No.1と書いています。
ただ、この記事でこの数字を使うのは、規模の大きさを示すためではありません。
数字が大きい対象ほど、周りに企業の公式発表が多く残ります。何が切り出されたのかを外から確かめるには、記録が多いほうが都合がよい。宝鐘マリンは、個人としてその条件を満たす、数少ない対象です。
では、その記録に何が残っていたのか。企業が自分の言葉で書いた発表を、1件ずつ開いていきます。
参考:宝鐘マリン タレントページ - hololive公式サイト/カバー株式会社
ここから扱うのは、企業の発表13件のうち、設定や公言してきた好みが起点で、本人単独の起用にあたる3件です。切り出されたのは、衣装の自虐設定、名前、公言していた好物の3つでした。ゲーム会社、観光施設、コンビニエンスストアという業態の異なる3社が、それぞれ別の言葉を商品名と企画名に使っています。
KRAFTON JAPANは、2025年9月10日から10月10日まで、『PUBG MOBILE』で宝鐘マリンとのコラボを実施しました。全世界で10億ダウンロードを超えたと同社が書いているタイトルです。
実装されたのは、衣装スキン2種、ボイスカード2種、スプレー5種ほかのアイテムです。
課金アイテムの一覧を上から読んでいくと、衣装スキンの行で止まります。そこには2つの名前が並んでいます。「宝鐘マリンセット」と、「宝鐘マリン(三十路衣装)セット」。同じ人物の衣装でありながら、別々のスキンとして用意されているわけです。
三十路というのは、宝鐘マリンの世界観の中心にある言葉ではありません。公式プロフィールの年齢設定は大体17歳ですが、同じページのQ&Aには、その17歳が3周目だと本人が答える項目が置かれています。年齢設定との落差そのものが、公式に記録された持ちネタになっています。
その持ちネタが、通常衣装とは別枠の、単体で名前と価格のついた商品になりました。
ここで起きているのは、キャラクターを1体まるごと貸し出したのとは違うことです。使われたのは、設定の中の言葉が1つだけ。買う側も「宝鐘マリンのスキン」ではなく「三十路衣装のほう」を選べます。
言い換えると、企業はこの設定に単独の商品コードを与えたことになります。在庫として管理でき、価格をつけられ、購入履歴に残る単位です。海賊船長という中心設定は、この一覧のどこにも商品名として現れません。
なお、このコラボについて企業側が起用の理由を書いた記述はありません。獲得数や売上の数字も公表されていません。確かめられるのは、何が商品の名前になったか、そこまでです。
設定の一部は、それだけで値段のつく単位になることがあります。
2024年12月2日から29日まで、横浜マリンタワーとのコラボ企画が実施されました。運営はリストプロパティーズ株式会社を中心とした共同事業体で、施設は1961年1月15日に開業した観光施設です。
このリリースには、他の多くと違って企画の理由が書かれています。1stライブの開催を記念し、同じ「マリン」という名前である横浜マリンタワーでコラボを実施する、という記述です。

企画の中身は、施設の中だけにとどまりません。12月6日から8日までの3日間、19時から20時にかけて塔が赤色にライトアップされ、展望フロアではMV『幽霊船戦』が上映されました。オリジナルデザインのみなとみらい線一日乗車券も販売されています。横浜の夜景の中で、塔がひとつだけ赤く染まっている。それを見上げる通行人の多くは、その色に理由があることを知らないはずです。
ここで並んでいるのは、ライトアップ、映像の上映、鉄道の乗車券です。どれもキャラクターグッズではありません。施設が普段から持っているものを、そのまま企画に使っています。塔はもともと光りますし、展望フロアにはもともとスクリーンがあり、みなとみらい線はもともと走っています。企画のために新しく作ったのは、そこに載せるデザインのほうだけでした。
企画を立てたのは、不動産・観光を本業とする企業です。1961年に開業した施設の名前と、2019年にデビューしたキャラクターの名前が、たまたま一致していました。
その偶然が、社内で企画を通すための理由として、公式のリリースに書かれています。
観光施設の担当者が社内で企画を通そうとしている場面を想像すると、この一行の強さが分かります。相手はVTuberを知りません。ファン層の規模を説明すれば数字の根拠を問われますし、話題性を説明すれば主観だと言われます。ところが「施設と同じ名前だから」には、前提知識がひとつも要りません。読んだ瞬間に、誰にでも意味が通ります。
キャラクターの設定が働く範囲は、オタク向けの商材の内側だけとは限りません。
セブン‐イレブン・ジャパンが2025年11月21日に発表した監修カップめんは、2025年11月25日から順次、全国のセブン‐イレブンとイトーヨーカドーで販売されました。シーフード豚骨ラーメンと旨辛ラーメンの2種です。
開発のきっかけとして企業側が説明しているのは、本人が語り続けてきた寿がきやへのラーメン愛を起点にした、という点です。
その経路を逆から辿ると、こうなります。まず、配信の雑談で特定のブランド名が繰り返し口にされる。その語りが記録として残る。記録の中のブランド名が、愛知県豊明市に実在する食品メーカーの名前と一致している。だから食品メーカーと組む理由が立ち、製造は寿がきや食品が担当することになりました。リリースには、同社が1962年にスープの粉末化に成功した企業であることも書かれています。愛知の工場で作られたカップめんが、全国の店頭に並ぶまでの発端は、設定資料ではなく雑談でした。
もうひとつ、リリースには対象層の記述があります。VTuber業界を超えて幅広い層に支持される、という書き方で、ファン層に限らない位置づけが明記されています。ここは企業がわざわざ書いた一行なので、そのまま読む価値があります。企業は、この商品をファン向けの限定グッズとして出したのではない、と自分で宣言しているわけです。
並んだ場所も、専門店やイベント会場ではありません。全国のコンビニエンスストアと総合スーパーの、ふだんの売り場です。シーフード豚骨と旨辛の2種類が、338円という、隣に並ぶ他のカップめんと変わらない値段で置かれました。買う人の多くは、コラボ商品を買いに来たのではなく、昼食を買いに来ています。
このとき企業が仕入れたのは、キャラクターの絵ではありませんでした。絵は当然使われていますが、企画の起点になったのは、寿がきやという4文字のほうです。その4文字が実在するメーカーの名前と一致していたから、監修という形が成立しました。
企画の材料になったのは、設定資料に書かれた項目ではありませんでした。使われたのは、世界観とはまったく関係のない、個人的な好みのほうです。
キャラクターIPの起用が、オタク向け商材の外側で成立した記録が、ここにあります。
3件を並べると、共通しているのは作り込みの有無ではありません。

三十路衣装は、独立したスキンとして実装されるほど作り込まれています。寿がきやへの好みは、長い配信の積み重ねです。どれも手をかけた結果として存在しています。手をかけること自体は、間違いなく効いている。
違いは、その手をかけた先が、世界観の外にも足場を持っていたかどうかです。
| 使われた言葉 | 世界観の中心との距離 | 外の世界での足場 |
|---|---|---|
| 三十路 | 周縁。年齢設定との落差 | 実在する一般語 |
| マリン | 名前。世界観の外にも同じ文字がある | 横浜に実在する建物の名前 |
| 寿がきや | 世界観とは関係のない好み | 愛知県の実在する食品ブランド |
右の列を見ると、3語とも世界観の外に住所を持っています。三十路という言葉は日本語の中に、マリンは横浜の海沿いに、寿がきやは愛知県豊明市に。だから外の企業が、自分の文脈にそのまま置き直せました。
海賊船長には、この列に書けるものがありません。海賊船長という言葉が指すのは、宝鐘マリンの世界観の中だけです。だから外へ持ち出そうとすると、世界観ごと持ち出すことになる。13件のうち、それをやった企業はゼロでした。
つまり、IPには2つの別の作業があることになります。世界観のまとまりを上げる作業と、外に足場を持つ言葉を増やす作業です。前者をどれだけ進めても、後者の数は増えません。世界観を作らなくていい、という話ではありません。中心へ寄せていく作業は、それ自体が正しくても、外へ持っていける言葉の数までは増やさない、ということです。
では、この3件は例外なのでしょうか。13件を全部見ると、どうなっているのか。
参考:宝鐘マリン×『PUBG MOBILE』コラボ - KRAFTON JAPAN株式会社/宝鐘マリン×横浜マリンタワー コラボレーション - リストプロパティーズ株式会社/宝鐘マリン監修カップめん発売 - 株式会社セブン‐イレブン・ジャパン
前の章で扱った3件は、企業の発表13件の中の3件です。残る10件はどうだったのか。企業が出した発表のうち、2022年から2026年までに公開されたもので当社が確認できたのは13件で、13件のうち起用理由を本文で述べているのは2件だけでした。
冒頭で書いた作業を、もう少し細かく見ていきます。13件の発表を1件ずつ開いて、理由にあたる記述を探しました。

どの発表にも、細かく記されているものはあります。実施期間、対象店舗、アイテムの構成、価格、応募方法。企業は自社の決定を、驚くほど正確に書いています。
一方で、なぜこの人物だったのかという説明は、大半の発表にありません。13件のうち起用理由を本文で述べていたのは、セブン‐イレブン・ジャパンとリストプロパティーズの2件だけです。
これは企業が隠しているという話ではありません。プレスリリースは決定を伝える文書であって、決定に至る道筋を説明する文書ではないからです。誰と比べたのか、どの条件で通ったのか、社内でどんな反対があったのか。どれも公開の対象ではありません。
それどころか、理由を書いた2件のほうが例外的です。セブン‐イレブンは本人の好物を、横浜マリンタワーは名前の一致を書きました。どちらも、決裁の過程を明かしたわけではありません。
商品の説明として必要だったから書いただけです。カップめんがなぜ寿がきや監修なのかは書かないと商品が説明できず、赤く光る塔がなぜマリンなのかも書かないと企画が説明できません。つまり理由が書かれた2件は、理由が商品名の一部になっていた2件でもありました。
ただし、書かれないものがある一方で、必ず書かれるものもあります。商品名と企画名です。企業は理由を書かなくても、名前は書かなければ発表になりません。そこに、何を切り出したかが刻まれています。
では、事例集に載っている「起用の理由」は何なのでしょうか。素材が企業の発表しかなく、そこに理由が書かれていないなら、理由にあたる部分は誰かが推測で埋めたことになります。手元の事例集で、起用理由として書かれている一文の出どころが企業の発表まで遡れるかどうかを見れば、確かめられます。
名前から読むには、先に整理が要ります。この13件は、5つの型に分かれます。

この5つは、企業側の決め方がまったく違います。合算して「コラボ何件」と数えると、個人の設定が起点の起用も、グループの一員としての参加も、版権許諾による物販も、すべて同じ1件になります。
自社で真似できるのは、1つ目の3件だけです。残る10件は、グループの規模や既存の作品があって初めて成立します。
ただし、型を分けても切り出される単位は個人の側にありました。グループ起用に分類したサンマルクグリルでも、宝鐘マリン向けの限定メニュー名には本人のミームが使われています。企画の起点はグループのライブ記念でも、商品名の単位は個人の言葉だった、ということです。
型で分けたあと、1件ずつの企画をどう組み立てるかについては、VTuber起用を6つの変数で分ける側から見た整理もあります。
ここまでで、何が切り出されたかは分かりました。13件を数え、5つに分け、真似できるのは3件だと確かめたところまでです。
残るのは、いちばん聞きたい問いのほうです。それで、効いたのか。
参考:荒野行動×ホロライブXmasコラボ - NetEase Interactive Entertainment/宝鐘マリン 1st Live をみるハコで配信 - 株式会社エクシング/ホロライブプロダクション 宝鐘マリンパペットぬいぐるみ - 株式会社タイトー
数えるのは世界観の完成度ではなく、本体から切り離しても意味が残る言葉の数です。ただしその前に、この読み方で分からないことを先に置いておきます。
効果が出たから広がった、という説明が成り立つなら、それを裏づける数字がどこかに出ているはずです。13件の発表をもう一度、今度は成果の数字を探して読み直しました。来場者数も、売上も、アイテムの獲得数も、どの発表にも書かれていません。
企業が過去の企画を振り返る場面はあります。荒野行動のXmasコラボの発表には「復刻について」という項があり、以前のアイテムをどう配り直すかが具体的に説明されています。それでも、その企画がどうだったかには一言も触れていません。振り返っているのに、語られるのは配り方だけでした。

会社の開示も、同じ方向を指しています。カバー株式会社の有価証券報告書には、タイアップ広告でタレントが直接稼働せず商品のパッケージやポスターにキャラクターだけが使われる事例があり、そうした事例のほうが収益性が高くなることが多い、と書かれています。この記述は第7期から第10期まで4本すべてに載っています。

伸びの速さで並べても、順番は同じでした。5年でいちばん伸びたのは他社にIPを渡す区分で、自分たちが配信する区分がいちばん低い。企業が持っていく動きは、この記事が数えた13件だけの話ではなく、会社の売上の形にも出ています。ただし会社が数字を出す単位はグループなので、ここから個人のことは分かりません。決算から読めることは、別の記事にまとめました。
ホロライブという規模も、引き算できません。13件のうちグループの一員として参加したものが4件あり、セブン‐イレブンのリリースには登録者数が具体的に書かれています。
そして3件は、法則を作るには足りない数です。示せるのは、そういう起用の仕方が現実に存在する、というところまでになります。運なのか設計なのかにも、答えを出しません。確かめられるのは置かれていたものと使われたものの対応だけで、その対応があったから広がったのか、広がったから対応が生まれたのかは区別がつきません。
分からないことを並べたうえで、それでも数えられるものは残ります。
参考:あにつく2024レポート サンジゲン登壇 - 株式会社Too/有価証券報告書 第7期〜第10期(2021年3月期〜2026年3月期) - カバー株式会社
ここまでに出てきた言葉を、誰が使ったのかで並べ直すと、3種類に分かれます。それぞれ必要としている形が違います。

1つ目は、企業が商品にするときです。企業が要るのは、そのまま商品名に載る単位です。三十路、マリン、寿がきや。どれも短く、値札の隣に置ける形をしていました。自社のキャラクターの設定は、単体の名前として切り出せる単位になっているでしょうか。数えるのは、世界観が何行あるかではありません。いくつに切れるかです。
2つ目は、ファンが自分で作るときです。ここで要るのは名前ではなく、手を動かせる素材のほうです。公式のタレントページには、ファンアート用のハッシュタグと、MMDモデルの配布ページへのリンクが常設されています。真似したい人が現れた日に、渡せるものが手元にあるでしょうか。
3つ目は、社外の担当者が自社の中で企画を通すときです。要るのは一行の理由です。名前が同じであること。それが横浜マリンタワーの企画を通した一行でした。自社のIPには、他社の企画書に書ける一致点があるでしょうか。
これらはいずれも、後から見つかった才能ではありません。公式ページに項目として並んでいるもの、配布ページに置かれているものです。つまり、外から数えられます。
数えるという言い方をしているのは、評価しないという意味でもあります。良い設定かどうかは人によって割れますが、単独の名前として切り出せる項目が3つあるか5つあるかは割れません。自社の企画書に書くとき、割れない数字のほうが強い。
どれか1つに寄せると、残り2種類の手は動きません。
ここで、制作力の話をしておきます。作れる人だから広がったのではないか、という見方は当然出てくるからです。
『SHINKIRO』の公式クレジットを上から読むと、絵コンテ・演出は髙嶋宏之、キャラクターデザイン・作画監督は宗圓祐輔とあります。宝鐘マリンの名前が出てくるのは、企画・監修の欄と、約40名いる原画スタッフの1名としてです。つまり、この作品の絵を設計したのは本人ではありません。それでも、企業が持っていったのは設定のほうでした。
費用の面でも同じことが言えます。本人は自ら企画して作るものの費用を基本的に自費で負担していると2023年11月13日の配信で語っていますが、同じ場面で「基本的にみんな自費ですよ」とも述べています。ホロメンが自分で企画したものは全員が自費で、運営が企画したものは運営が負担する、という線引きです。つまりこれは所属していることに伴う共通の前提で、他のタレントとの違いを説明する材料にはなりません。
設定に名前をつけること。本人が公言している好みを記録として残しておくこと。真似できる形を配っておくこと。いずれも、絵が描けるかどうかとは別の作業です。
制作は外に発注できますが、何を置いておくかは発注できません。
参考:SHINKIRO GuraMarine 制作実績 - 株式会社スタジオKAI
最後に、冒頭の机の上に戻ります。
13件の発表に、起用の理由はほとんど書かれていませんでした。書かれていたのは、商品名と企画名です。だから他社の事例を読むときは、企業がその人物をどう評価したかではなく、企業が何を切り出したかを読む。切り出されていたのは、たいてい世界観の中心ではなく、その周縁に置かれた言葉のほうでした。
完成度は、自社が上げるものです。上げた分だけ、そのものは良くなります。ただし次の一手も、また自社が打つことになります。外に足場を持つ言葉のほうは、増やしても自社の作業量は増えません。増えるのは、社外の人が打てる手の数です。ゲーム会社が課金アイテムの名前として使い、観光施設が企画の理由として使い、コンビニエンスストアが商品開発の起点として使う。打っているのは、いずれも自社ではありません。
同じ作業は、他のVTuberについても、別ジャンルのIPについても、企業の発表を並べればできます。この記事が3件しか挙げていないのは、その作業を1人分しかやっていないからです。
自社のIPを見るときは、よくできているかではなく、本体から切り離しても意味が残る言葉がいくつあるかを数える。数えられるものは、記録に残ります。

キャラクターを「自社に合う見栄えか?」だけで作っても、顧客から受け入れられないことがほとんどです。
ユーザーは多くの情報に晒されており、自分が興味を持つものしか見ないからです。
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株式会社NOKID(ノーキッド)はショートアニメ/アニメーションCMの企画・制作・SNSアカウント運用・プロモーションを得意とする東京の企画・制作会社です。キャラクターIPの開発・企画立案・制作からプロモーション企画立案・実施まで話題性を意識したサービス提供が可能です。


NOKID編集部
キャラクターIPの専門メディア NOKID Lab の編集部です。アニメーションとキャラクター制作を手がける株式会社NOKIDの知見をもとに、IPの起用事例やコラボ・ライセンスの実務、業界の動きを解説しています。